研究概要 |
平成25年度は、スミスに帯する理解を深めるため、『道徳感情論』と『国富論』のみならず、『法学講義』や『修辞学・文学講義』、『哲学論集』において展開されるスミスの議論を整理するとともに、最近のスミス研究、特に海外におけるスミス研究の動向を考察した。対象とした文献としては、Haakonssen, K. (ed.),The Cambridge Companion to Adam Smith,Fleischacker, S., On Adam Smith’s Wealth of Nations: a philosophical companion,Evensky, J.,Adam Smith’s Moral Philosophy: a historical and contemporary perspective on markets, law, ethics, and culture, Rothschild, E.,Economic Sentiments : Adam Smith, Condorcet, and the Enlightenment, Raphael, D.,The Impartial Spectator: Adam Smith's moral philosophy, Haakonssen, K., The Science of a Legislator: the natural jurisprudence of David Hume and Adam Smithなどがある。 スミスの著作および、2次文献を詳細に検討した結果、スミスが考える「愛着」の範囲が、自分を中心に、家族、友人、組織、地域、同胞国民へと、「相互共感の頻度」に応じて同心円的に拡大していくものの、同胞国民を越える人びと、つまり外国人に対しては拡大しがたいものであることがわかった。このことは、外国人の場合は相互同感の頻度が極端に落ちるためなのか、それとも別の原理が働くためなのか。この問題に対して、スミスはどのように考えていたかが発展可能性のある独創的な課題として把握された。以上の考察を部分的に反映させた成果として、論考「共感、愛着、および国民的偏見」を御厨貴・飯尾潤編『災後の文明』(阪急コミュニケーションズ、2014年3月14日刊行)に掲載した。
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