研究課題/領域番号 |
25380249
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堂目 卓生 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70202207)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アダム・スミス / 共感 / 公平な観察者 / ベルグソン / ナイト |
研究実績の概要 |
平成26年度は、前年度に引き続き、『道徳感情論』、『国富論』、『法学講義』等、スミスの著作、およびスミスに関する最新の論文・著書を読み進めるとともに、スミスの『道徳感情論』を読んだとされるベルクソンの『道徳と宗教の二つの源泉』を検討した。その結果、スミスの「公平な観察者」は、主としてベルクソンの言う「閉じた道徳」を形成する機能を持つものであること、しかし、その根底には「開いた道徳」を準備する性質をもつものであることが分かった。このことは、前年度に発見した課題――愛着の範囲(公平な観察者を用いた道徳的判断を適用する範囲)が同胞に限られ、外国人にまで広がりにくいのは何故か――に対する有力な答えとなり得る。また、交際(相互同感)の頻度の上昇によって、愛着の範囲が広がれば、普遍的な公平な観察者の形成と、そのもとでの自然的正義(「開いた道徳」)の成立が可能であることを示唆するものでもある。 平成26年度は、こうした考察とともに、フランク・ナイトの『競争の倫理』(1923)も検討し、ナイトの「道徳」がベルクソンの「閉じた道徳にあたるとともに、ナイトの「倫理」がベルクソンの「開いた道徳」に該当することが分かった。このことは、なぜナイトが「競争」と「倫理」の両立可能性に懐疑的であったかを理解する糸口になる。また、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』についても検討した。すべての人間を平等と見なした上で成立するデモクラシーが人間本性に根ざすものではないというベルグソンの考え方から検討することによって、トクヴィルが、そしておそらくスミスも、デモクラシーに対して慎重な態度をとった人間学的根拠を見いだすことができた。 以上のように、ベルクソンを介することによって、研究目的の一部であるスミス、ナイト、トクヴィルの関係をより明晰に把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スミスの著作をベルクソンの観点から読み直すことによって、研究目的の一部であるスミス、ナイト、トクヴィルの関係をより明晰に把握することができた。このことは、前年度に発見した課題――相互共感の頻度が増せば愛着の度合いは比例的に増大し、普遍的人類愛に到達することができるわけではないこと――対する有力な解答を得たと言える。したがって、研究はおおむね進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、スミスの「公平な観察者」とロールズの「無知のヴェール」との関係に重点を置いた研究を進める。特に、スミスの公平な観察者が「開いた公平な観察者」であるのに対し、ロールズの無知のヴェールが「閉じた公平な観察者」であるとするセンの解釈を、今年度の成果を活かしながら検討する。また、ケインズについても、哲学的基礎を探求し、スミスの総合知に関連する事柄がないか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度も書籍の収集と読解に重点を置き、かつ、研究の進捗に応じて書籍を購入したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
金額的に大きくないので、27年度中に執行可能と考える。書籍の購入または旅費として支出する予定である。
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