研究課題/領域番号 |
25380255
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
中野 聡子 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20245624)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 限界革命 / 不均衡理論 / ジェヴォンズ / エッジワース / マーシャル / ミクロ理論 / 包絡線定理 / エッジワースの極限定理 |
研究実績の概要 |
イギリスの限界革命の問題の中心が、確率現象の理解を前提とした不均衡理論にあったかどうか、そしてこの契機がジェヴォンズに限定されるのか、エッジワースにも共有されているのかを検討し、市場均衡理論との分水嶺を見極めるのがねらいであった。今回の科研費研究により以下の二つの発見があり、ジェヴォンズ、エッジワース、および前期マーシャルが不均衡理論に属し、後期マーシャルが現代的な市場均衡の側に入ることがわかった。第一は、マーシャルの初期の貿易論の原稿Marshall(1879) はオファーカーブの分析と安定分析の先駆的展開として注目されてきたが、この中にエッジワースの極限定理につながる着想の一部が存在することが見出された点である。いわば、1880年前後の前期マーシャルは、ジェヴォンズ、エッジワースの不均衡論的視点を部分的に共有していた可能性があることがわかった。第二は、オーストリーのアウシュピッツとリーベンの著作に対する1889年のエッジワースの書評が、エッジワースの著作文献目録から120年にわたって抜け落ちていることが見出された点である。この資料は、エッジワースとマーシャルの対立の引き金になり、1890年『原理』公刊後の後期マーシャルが、前期マーシャルの不均衡過程を分析する方向性から決別することに呼応している。第二の点は、後掲の2本の論文にまとめ、第一の点は、論文作成中である。ジェヴォンズ、エッジワースそしてマーシャルは方法や力点に相違はあるが、1870年代の限界革命の中心はそもそも不均衡過程を説明すること、そしてそのためにミクロ理論を明示化することにあった可能性がある。限界革命当初のミクロ経済学の狙いと市場均衡の展開の間に断層があり、この断層を通じて限界革命期の経済学史を理解することは、現代の経済学にも大きな光を与える。経済学史学会でセッションを組織しこの内容を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
中野聡子「ジェヴォンズ、エッジワースの研究計画とマーシャルの研究計画の相違;近代経済学の展開の深遠な断層」(2015) 中野聡子「包絡線定理と費用曲線の経済学史的展開:ヴァイナー、ハロッドの展開とエッジワース」(2013)により、ジェヴォンズ、エッジワース、前期マーシャルまで(1870から1890まで)ミクロ理論の展開において不均衡過程への問題意識がみられることがわかり、その意味で当初の研究計画のねらいをカバーすることができた。他方、ジェヴォンズ、エッジワースには、功利主義を背景とする制度構築の視点があり、さらにゲーム理論の分析の萌芽、包絡線構造の理解など現代のメカニズムデザインにつながる諸相を有していたことが、当初のねらいを超えて判明してきた。彼らの視点は一度経済学史上埋没し、市場均衡理論の定式化が席巻したことを明確にする必要がある。ミクロ理論の形成過程についてこれまで連続性に依拠してきたが、その経済学史的理解を修正する必要がある。現在この点を詳細に論証すべく、以下の2本の論文を執筆中である。① “Edgeworth’ insight into his Limit Theorem in relation to Jevons and Marshall: A shared vision in the British Marginal Revolution toward the local market interactions”② “The Parametric formulation of Marshallian Externality by Edgeworth in his Review of H. Cunynghame’s A Geometrical Political Economy”
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度から3年で基盤研究(c)「イギリス限界革命期のミクロ経済学の形成:市場の制度設計の視点の萌芽とその消失」の研究を続行する予定である。(1)成果の発表:まず前回の科研費の研究から内容が明確になっている論点を英文論文にまとめること。そのうえで、今回の射程を広げることにより捕捉される文献資料を広範に検索し、さらにその文献資料に理論評価のメスを入れる。(2)制度設計の視点を後退させた歴史的要因の調査:オックスフォード、LSE、ルンド大学、関西学院大学など各地に散在するエッジワースの資料をもとに調査研究。(3)他の論点との連携:2015年度経済学史学会大会でセッション「イギリス限界革命期前後、需給均衡理論は当初からハードコアであったか?」を組み、市場均衡理論が限界革命のねらいにおいて占める比重を大幅に変更する解釈が他の論点からもサポートできるかを問題提起した。29年度以降、ESHET(ヨーロッパ学史学会)、HES(北米学史学会)でも同様の試みをしたい。本研究は、近代経済学史におけるかなり重要な解釈の大幅な変更を含むので、論点を多面的に支持できるかどうかを、多くの研究者と議論する必要があると思われる。学会のみならず、個別に研究者とコンタクトをとりセミナーなどに参加することも行う予定である。(4)統計・実証分析の(評価:ジェヴォンズの物価指数、景気循環等の実証研究、エッジワースの統計分析の評価を視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献検索と整理が完了せず、アルバイトを4月に継続したいというのが主な理由である。研究室の備付の文献検索用に使用しているパソコンのスピード不足も伴い、資料をスキャンして画像保存し、整理するのにかなり時間を要している。4月以降も作業を継続したい。その作業に基づいて、文献の検討を行い研究を続行する必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度 4月以降アルバイトを継続し、研究室の備付の文献検索用に使用しているパソコン購入に充てる予定である。
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