本研究は、イギリスで1870年から1890年にかけて、不均衡論的分析視点が均衡論のそれよりも先行する形でミクロ分析が構築されたことを研究し、その意義を明らかにしようとするものである。平成28年度は、ジェヴォンズとエッジワースの不均衡過程特有の分析や問題設定が、現代経済学に与えた影響を明確にすることために、内生的経済成長理論に与えた影響を明らかにした。「規模のパラメトリック経済の定式化の学説史上の意味:F.Y.エッジワースがH.カニンガム(1904)への書評で意図したこと」(forthcoming)にその内容を発表している。「規模のパラメトリック経済」(parametric economies of scale)は、個々の企業は自身の内部経済について規模に関する収穫逓減の生産関数を有しているが、産業全体の全企業の生産量の集計に依存する外部経済については、規模に関する収穫逓増となるモデルである。これにより、マーシャルの外部経済の分析が容易になると同時に、知識や教育といった人的資本の役割がクローズアップされるようになった。本研究は、この定式化の経済学史的背景を明らかにした。第一に、「規模のパラメトリック経済」の定式化は、カニンガム(Cunyghame(1904)の著書に対するエッジワースの書評論文(Edgeworth(1904))の脚注で展開され、本質的な部分はエッジワースの議論であることを指摘する。第二に、エッジワースは競争市場と外部経済の両立の可能性を指摘しながらも、むしろ、彼の主旨は次の点にある。完全競争をその特殊ケースとするより一般的な市場、すなわち価格だけでなく、他の主体の行動を互いに考慮する相互依存の発生する市場をどう分析するかについてのエッジワースの方法的見解の表明にあることを指摘した。この研究成果により、ゲーム的状況も含む市場の分析の視点が、需給均衡の数理化に先行する形で提起された限界革命期の状況が明らかとなった。
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