研究実績の概要 |
最終年度であることに鑑み、当初の計画に従い研究成果の発表に力点を置き、内外での学会発表(国内1回、海外2回)を行った。 そこで得られた研究成果は以下の通り。第一に、1990年代の経済危機をマクロ、ミクロ両政策の失敗として捉え、当時の経済政策思想との関連を探った。第二に、当時経済学者の間で戦わされた経済論争を詳細に検討し、日本経済の停滞の原因を構造的要因によるものと捉える見解と、マクロ政策の失敗によるものと捉える見解を中心として、政策思想に分裂状況が見られた。第三に、2012年12月に発足した安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスは、以上のような政策思想の分裂に対して一定の解答を与えるものであるが、思想の分裂は現在でも続いており、それがアベノミクスの今後についても影響を持っている。 この研究の意義は、第一に、これまで経済学的な観点からの研究が多数を占めていた90年代日本経済の研究に、経済政策思想と経済政策の関連という経済思想史的な観点からの考察を加えたところにある。第二に、アベノミクスと関連付けることで90年代の研究が現代の日本経済を理解するうえでも意義を持ちうることを示したところにある。 なお2015年にこの科研費の研究成果として出版された英文著書Japan's Great Stagnation and Abenomicsには二つの書評が海外学術雑誌に掲載されている。国際経済学・経済史の泰斗であるバリー・アイケングリーン教授(カリフォルニア大学バークレー校)からは"the best book to date on the Japanese economic crisis and Shinzo Abe’s campaign to resolve it" (Japanese Journal of Political Science 17 (1), 128) という評価を得ている。
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