本年の研究成果として,論文"A Structural Estimation Approach to an Asymmetric Auction Model for the Retail Power Market in Japan" を作成し,延世大学商学部(韓国ソウル市)において,口頭報告(使用言語:英語)を行,Seminar proceedings に収録された.本文の理論モデルは,非対称な入札者(既存業者と新規参入者)による不完備情報入札ゲームであり,既存業者の費用情報は参加者全員にとって共有知識であるが,新規参入者の費用情報は私的情報である.非対称性は落札履歴にも依存しうる.実証分析として,上記の設定下における混合戦略均衡を導出し,日本の電力小売市場における実際の観測落札額と比較することで,入札参加者の費用構造を推定した.得られた主要な結果は,日本の電力小売市場では,負荷率が非常に大きな費用決定要因となっている.入札者が増加するとともに競争圧力は高まり,非効率な入札は減少し,消費者にとっての厚生も高まる.新規参入者が少ない市場セグメントにおいて費用面で劣位にある新規参入者に対して優遇処置(入札額を一定割合割り引く)を適用すると,割引率が数パーセントまでであれば,入札効率性および社会的余剰を同時に改善する可能性がある.これらは現状の既存業者が得ているレントが非常に大きく,このレントを消費者と新規参入者に再分配しつつ,適度な競争圧力の下で効率も向上した結果を反映していると解釈できる.今後さらに,過去の落札履歴が,現時点の入札に対して与える影響を加味した分析を追加した上で論文を改訂していく.
|