平成28年度は、本研究の目的である小地域の観光規模把握の事例として、東京都23区内に存在する鉄道駅別および路線別の産業別GDPおよび観光GDPの推計を行った。ここで駅別GDPとは、各駅を中心とした800m圏内で産み出されたGDPであり、これを路線別に合計したものが路線別GDPである。推計方法としては、「平成24年経済センサス-活動調査」の町丁大字別・産業大分類別従業者数データをベースとしながら、「平成23年宿泊旅行統計調査」の個票データや「平成24年経済センサス-活動調査」の個票データに基づいて作成された市区町村別産業連関表、およびレストラン検索サイトやホテル予約サイトの情報などを活用し、駅別・産業別のGDPを推計した。またこの結果に基づき、平成26年度に行った「観光地域経済調査」を用いた観光売上額推定手法を活用し、地域の観光GDPの推計を試みた。 推計の結果から、駅別GDP上位の駅は東京駅周辺にに集中しており、個人サービスの生産が盛んな新宿・渋谷・池袋などはそれほど大きなGDPを産み出していないこと、路線別GDP上位20位に入る路線は全てJR、東京メトロ、都営のいずれかであり、公的な性質を持っていた路線が23区経済の中心であることなどが明らかとなった。また観光に関連して、宿泊業のGDPと空港からの位置に関して分析を行った結果、羽田空港・成田空港からの乗換回数が少ない駅ほど、宿泊業のGDPが占める割合が高いという結果が得られた。このことは、東京都23区内において、鉄道網が観光GDPの発生と密接に関連していることを示唆するものであった。 これらの研究成果については、いくつかの学会や学術誌での公表に加え、大学市民講座(立正大学品川キャンパス、2016年11月9日)や兵庫県地方統計職員業務研修(兵庫県民会館、2017年2月13日)においても成果の一部を紹介している。
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