金融市場では、分刻みのデータや取引ごとのティック・データなどが入手できるようになり、金融資産のリスク分析に実現ボラティリティが用いられるようになってきている。本研究では、実現ボラティリティを多変量に拡張した「実現共分散」を扱っている。 複数の金融資産を組み合わせた金融派生商品の価格付けの問題は、ゆっくりではあるが研究が進んでいる領域である。この分野で、多変量ボラティリティのモデルとして使われているものの1つが、Gourieroux (2006)の連続時間ウィッシャート自己回帰モデルである。 平成27年度は、この連続時間ウィッシャート自己回帰モデルを拡張し、非対称性を取り入れたモデルを考案し、その統計的性質を導出した。また、実現共分散を使って、GMMによる推定方法を考案した。 また、実現共分散の離散時間モデルとして、長期記憶性・非対称性・動的相関関数行列の特性を取り入れたモデルをさまざま考案し、比較分析をおこなった。特に、時変動共分散のモデルでは、分析対象となる金融資産の数が増えると、パラメータの数はその2乗のスピードで増加してしまう。この問題を回避するための方法の1つがファクター構造である。この研究では、ファクター構造を導入しながら、各金融資産のもつ非対称性を失わないような構造を考案した。
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