経済理論では自由貿易の利益が示されているにも関わらず、現実社会では貿易自由化に困難が伴う。特に、リーマン・ショック以降、貿易制限措置の新たな導入も世界的に見られる。 こうした根強い動きの背景には、職種や業種だけでなく、標準的な経済学では想定されていない要因、特に近年発展した行動経済学で明らかにされた種々の行動バイアスが個々人の貿易政策への支持に影響しているのではないかと考えられる。 そこで、日本全体の「縮図」となる1万人を対象としたアンケート調査結果の個人データを活用して、個人の行動経済学的特性が貿易政策に対する選好に与える影響に関する計量実証研究を行った。その結果、輸入保護産業(日本の場合は農業)への従事が強い影響を与えることが確認されただけでなく、リスク回避だけでなく現状維持バイアスも統計的に有意な影響を及ぼすことが見出された。この結果は、貿易自由化への支持を拡大するためには、所得補償や保険だけでなく広範な政策的取組みが重要であることを示唆していよう。 また、貿易自由化といっても互恵的か一方的かにより支持に違いがあること、個人の特性だけでなく農業従事者比率等の地域の特性も個人の政策選好に影響することなども明らかになった。
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