研究課題
住宅資産価格の上昇は、仮に住宅を転売したときの収入の増加や、資金を借り上げた場合の担保評価額の増加を通じて、持ち家所有者を豊かにする。一方、経済学では出生率は所得の増加に伴い上昇すると考えられている。資産の増加は所得の増加と同じような効果を持つため、この2つの考えを合わせると、住宅資産価格の上昇は出生率に対して正の影響を及ぼすと予想される。実際に、2013年、2014年にこの予想に基づいた実証研究が経済学の主要雑誌に相次ぎ発表された。この予想に従うと、住宅資産価格の下落は上記に対して対称的な下落をもたらすと思われる。しかし、人々の心理を考慮して分析された損失回避行動によれば、人々は住宅資産価格の上昇に比べ、同額の下落に対してより敏感に反応すると考えられている。そこで、本研究ではこの考え方を応用し、住宅資産価格が下落するときに持ち家所有者が出生率を低下させる程度は、上昇する場合に出生率を上昇させる程度に比べて絶対値で見て大きいという仮説を立てた。この仮説を検証するために、本研究では「慶應義塾家計パネル調査」(サンプル数は約4000)の2004年から2011年の個票データを使用した。この調査から、家計が子を出生したか否か、所有する住宅の資産価格が前年から変化したか否かを知ることができる。検証の結果、住宅資産価格が前年から100万円上昇した場合は、次の年の家計の出生確率を1パーセントしか上昇させないのに対して、住宅資産価格が前年から100万円低下した場合は、次の年の家計の出生確率を11パーセントも低下させることが明らかになった。この結果は、上記で述べた仮説と整合的である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Working Paper, Faculty of Economics, University of Toyama
巻: 295 ページ: 1-20