研究課題/領域番号 |
25380290
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
池下 研一郎 金沢大学, 経済学経営学系, 准教授 (80363315)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 知的財産 / 利益供与 / 政治機構 / イノベーション |
研究実績の概要 |
本研究では政治経済学的なアプローチを取り込み,政府による知的財産保護政策の決定プロセスを考慮することによって,国家間の知的財産保護政策の違いや,イノベーションへの影響について明らかにすることを目的としている。 平成27年度は,この目的を達成するために前年度までに収集した文献や情報を用いてモデル分析を行った。特に製薬産業を念頭において,企業の利益供与が政策形成に影響を与えるような状況をモデル化した。このモデルでは政府の目的関数は,消費者の効用と企業による利益供与の加重平均として与えられる。また政府と企業は互いに交渉を行うことによって,政府は自らの設定する保護水準を,そして企業は利益供与の水準を決定しているものと仮定している。分析の結果として,企業の交渉力や企業によるロビイングの重要度が,政府によって設定される知的財産保護水準に大きな影響を与えることが示された。特に企業による利益供与が立法に対して大きな影響を与えるようなケースでは,保護水準は過剰になり,社会的厚生はむしろ低下するすることが明らかとなった。これらの結果は,1980年代以降のアメリカをはじめとする先進国のプロパテント政策が,必ずしも社会的厚生を改善するものではないことを示している。なおこれらの分析結果については論文として取りまとめ,平成28年度に学会発表や学術誌への投稿を行う予定である。 また上記以外にも平成27年度は,シュンペーター型成長モデルを用いた抑止特許の分析や児童労働抑止政策に関する研究を行い,シンガポールで行われた国際学会で報告を行った。ただこれらの研究についてはモデルの設定についてまだ改善の余地が大きく次年度以降も研究を継続する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は,今までの研究を踏まえて,企業による利益供与についてより現実的な設定のもとでモデル分析を行い,一応の結論が出る見通しが立った。またシュンペーター型成長モデルを用いた抑止特許の分析にも着手し,知的財産保護政策に関してより幅広い視点で分析を行うこと可能になった。一方でまだデータ分析については十分な結果を出していない状態である。また平成27年度については研究の最終年度であったにもかかわらず,当初予定していた成果発表や研究の取りまとめを十分に行うことができなかった。理由としては研究代表者である池下が平成28年度から九州大学に転出することが決まり,選考過程での面接審査や公聴会,転出決定後の準備作業のため,予定していた研究や学会・研究会への参加を取りやめざるを得なかったことが挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究については幸い補助事業期間延長申請が承認されたので,平成28年度が最終年度となる。平成28年度は今までの政治経済学的な分析を発展させ,政治的・制度的な要素がどのように知的財産保護の政策形成過程や一国のイノベーションに作用するのかを分析する。特に前年度までの分析を踏まえ,構築したモデルを開放経済に拡張し知的財産保護政策の国際波及効果について分析を進める。またシュンペーター型成長モデルを用いた抑止特許の分析について継続していきたい。 一方で実証分析については収集した統計資料や理論モデルの結果をもとに,どのような制度的・経済的要因が知的財産保護制度に影響しているのかについて分析する。具体的には今までの理論分析により,知的財産保護政策は,民主主義の程度,利益団体の交渉力,政府の腐敗度,研究開発部門の効率性,教育水準などの要因に依拠しているが,知的財産保護水準と他の外部パラメータとの関係について実証研究によって確認する。 今後はそれらの成果を論文として取りまとめ,国内の諸学会や国際コンファレンスで報告し学術誌に投稿する。最終的には4年間の研究成果を取りまとめ,報告書を作成し,知的財産保護制度について有益な政策提言を行いたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では,平成27年度後半にむけて研究を加速し,年度末に向けて研究成果の公表や取りまとめを行う予定であった。しかし研究代表者である池下が平成28年度に九州大学に転出することが決まり,選考過程での面接や,転出決定後の様々な準備作業のため,予定していた学会や研究会の参加や論文の執筆作業が滞った。このような理由で補助事業期間を1年延長し,次年度に使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,成果発表に関連する項目について中心に支出する。具体的には国内学会での報告の際に必要となる旅費,英語論文執筆の際の英文校正,データ入力や文章チェックのためのアルバイト謝金を中心に使用する計画である。
|