本研究では政治経済学的な方法を導入し,知的財産保護の政策形成プロセスを内生化することによって,知的財産保護制度がなぜ国家間で大きく異なるのか,そのことが経済成長にどのような影響を与えているのかを明らかにするものである。 初年度はこの目的に沿った形で,知的財産保護制度に関する理論的・実証的な文献について収集を行う一方で,モデル分析を行った。具体的にはバラエティ拡大型の内生的成長モデルを用いて,研究開発を行う企業が自らの独占力を保持するために,政治献金を行うような状況を分析した。これは統治者が政治献金を重要視する場合では,より多くの政治献金を得るために企業に対してより強い独占力を与えるインセンティブがあることを示しており,重要な結果であった。ただこのモデルは企業側の献金のインセンティブを考慮していないという問題があった。 次年度以降はこの欠点を修正するため,政治経済学に関する関連研究を調べる一方で,シュンペーター型成長モデルをベースにし,モデル分析を行った。結果として先行研究を踏まえ,利益団体と政策担当者の間の交渉の結果として政治献金のインセンティブを内生化することに成功した。また分析の結果,企業からの政治献金が存在する場合には,保護水準は社会的厚生を最大にする水準よりも過剰になる一方で,経済成長率をより高めることが明らかになった。平成28年度はこれらの点について論文にまとめ,国内学会やワークショップで発表した。この論文については現在国際査読誌に投稿中である。 また本研究の過程ではシュンペーター型成長モデルの1つの応用として,環境技術のイノベーションに関する研究を行った。この研究では先行研究よりも広いパラメータの範囲において,環境技術開発の進展が妨げられ,環境の悪化が加速度的に起こり得ることを明らかにした。この結果は論文としてまとめられ,発表されている。
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