この研究の課題は、ほとんど未開拓状態にある韓国の独立以降1980年代までの「生活政策」の実態を解明するために、①1950年代から70年代末までの行政機関による一次資料を確認・整理し、②そのうち特に重要な資料を考証・分析し、③こうした実証から当時の行政実態を解明し、その政策含意について、当時の政治的・経済的状況のもとで再評価するとともに、その歴史的意義を評価・検証すること、にある。これに沿って得られた研究成果の概要は、(1)近代的な社会保障政策の原形にあたる韓国・初期生活政策は、特殊な時代状況の中で「救護行政」という名称で独自の政策体系のもとに展開されていた、(2)経済成長とともに「救護行政」の限界が露呈されながら、政治的・社会的な時代状況ゆえ、この政策転換は1990年代の「民主化」に伴う福祉改革まで待たねばならなかった、(3)1960~70年代の軍事独裁政権による成長戦略に対峙し続けた「社会開発」構想の歴史的意義を確認し、現代の政策含意につなぐこと、などである。 公開論文としては主に次の7論考を『信州大学経済学論集』63号、65号、67号に発表した(http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/economics/research/journal/):「韓国の初期社会・生活行政をめぐる資料検証」(その1)~(その4)、「1960年代前半の韓国における「反共国家」建設と生活政策」、「韓国・朴正煕政権時代の経済成長戦略と社会保障構想」、「1960年代前半の韓国における「反共国家」建設と生活政策」。これらのほかに書き下ろし論考2本を加えた単著『韓国・社会保障の形成』を新幹社より刊行する予定である(現在、校正中)。また同書の韓国語版の刊行について、平成28年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)を得て、準備中である。
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