今年度は、インフレーション・ターゲッティングなどの近年の金融政策のアプローチにおいて必要とされるインフレーション指標の検討を行った。 通常用いられる一般物価指数に加えて、品目ごとの価格変動の時系列データから得られる標準偏差を用いて作成されるエッジワース価格指数、ニューケインジアン・モデルに基づくフィリップス曲線のパラメータとして推定される粘着価格指数について、将来の物価変動の予測に関するコア・インフレーション指標としての正確さを比較検討した。 まず、理論的には、粘着価格指数が経済変動のコストを最小化する指標であることを明らかにした。ついで、エッジワース価格指数も、一定の条件下で経済変動のコストを最小化しうることを明らかにした。その点で、いずれの指標も一般物価指数よりは優れているといえよう。 次に、実証分析として、将来のインフレーションの予測に貢献するかどうか、時系列回帰モデルを用いて、それぞれの指標について検討を行った。その結果、エッジワース価格指数は一般物価指数にも劣る予測力しかないことが明らかになった。他方、粘着価格指数は予測力の面からも優れていることが分かった。 以上の結果、粘着価格指数が理論的にも他の指標より優れているのみならず、実際のデータに基づく実証分析の結果からも、将来の物価変動の予測に関して優れたパフォーマンスを示すことを明らかにした。 しかしながら、速報性のある一般物価指数や、算出方法が単純で迅速に対応できるエッジワース価格指数に比べて、粘着価格指数は、その導出に価格データのみならず、限界費用に対応する各種コストおよび数量データを要する点で、実用には難点があることには注意が必要である。
|