本研究の目的は、プログラムのソースコードを公開しそのコピー・改変・再配布を自由に認めるオープンソース・ソフトウェア(OSS)の戦略(例えば、Linux)とそれを非公開として企業で専有する戦略(例えば、Windows)とを比較して、前者が後者よりも有利になる(普及する)のはどのような条件を満たしているときなのか、またそれに基づいて新たな競争政策をどのように構築・展開していったらよいかについて考察を行った。Microsoft社の商業的なOSであるWindowsについては、従来様々な理由により独占的地位を占めてきた。規模に関する収穫逓増、知的財産権の役割(OSのインターフェースの非公開)、スィッチング・コスト、ネットワーク外部性などである。それに対してWindowsを常に脅かすような新規参入者(新たなOS)があれば、たとえ独占であったとしてもパフォーマンスが必ずしも低下するとは限らない。OSS戦略に期待が高まってきたのはそのためである。実際に両社が併存するモデルを作成し、どちらが生き残るかについて、シミュレーションを行なったが、先の条件群の中では、一般のユーザーの場合には、新たなOSSに切り替えるスィッチング・コストがかなり高く、またOSSのメリット(ソースコードを自由にコピー・改変・再配布することを認めること)があまり感じられないことから、WindowsからLinuxに切り替えることはかなり困難である。したがって、OSSの普及を促すためには、政府からスイッチング・コストの分だけ補助金を提供するか、もしくは、OSSのメリットが感じられるようにコンピュータ教育をいかに促進するかが重要である。
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