研究課題/領域番号 |
25380319
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
松村 敦子 東京国際大学, 経済学部, 教授 (60209608)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 環境物品貿易 / APEC / グラヴィティ・モデル / 垂直的産業内貿易 / 水平的産業内貿易 / 生産工程フラグメンテーション / 世界貿易機関 / 貿易と環境委員会 |
研究概要 |
アジア太平洋地域における環境物品貿易の構造と貿易自由化の効果を分析するという研究目的にしたがい、以下のように段階毎に研究を進めてきた。まず、ジュネーブでの世界貿易機関「貿易と環境に関する委員会」における調査を通じて、WTOドーハ宣言に始まる環境物品貿易自由化目的の環境物品リスト作成と、環境物品貿易自由化議論の流れについて明らかにした。その上で、初年度である2013年度の研究として、日本に焦点を当てて環境物品貿易構造を明らかにし、さらにそうした貿易に関する要因分析を行った。 日本の環境物品貿易の構造を明らかにするため、APECの環境物品リストに従い、Global Trade Atlas 配信データを用いて貿易統計を収集し整理した。最新の環境物品貿易データを用いて、日本の環境物品貿易の状況について明らかにした。そこでは、日本の環境物品輸出がAPEC地域において非常に重要となっていること、ヨーロッパ地域との間では特に環境技術分野に属する物品についての輸入が重要性を持っていることが明らかになった。 次に、環境物品貿易がどのような形態をとっているのかを考察するため、産業内貿易指数の計測を行い、生産工程間分業を反映する垂直的産業内貿易指数は、アジア太平洋地域や一部のヨーロッパ諸国との間で進展していることが示された。環境物品貿易構造の決定要因分析として、グラヴィティ・モデルを用いた分析を行い、通常の説明変数の効果に加え、FTAの効果と産業内貿易進展の効果を計測した。そこでは、APEC内よりもむしろFTAを結んだ国との環境物品貿易が重要性を持つことが明らかとなった。また生産交点フラグメンテーションに基づき垂直的産業内貿易指数の高いアジア太平洋地域との貿易の重要性が確認された一方、ヨーロッパ地域との間では類似の質の製品の交換としての水平的産業内貿易の進展も明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2013年度においては、環境物品貿易自由化の議論についての展望を行い、世界貿易機関への出張による調査を通じて、さまざまな議論について深く考察することができた。その上で、環境物品貿易分析の意義について明らかにした 「研究実績の概要」で述べたとおり、日本の環境物品貿易に焦点を当てた研究を遂行し、アジア太平洋地域の諸国と日本との環境物品貿易の構造を明らかにし、環境物品の産業内貿易指数を計測することによって貿易形態について示すことができた。さらに、そうした貿易の決定要因分析を計量的手法を用いて行い、非常に興味深い結論を引き出すことができた。そうした研究成果についてはすでに論文に纏めており、『貿易と関税』7月号、8月号に掲載されることが決定している。 以上の通り、実地調査による事実確認、統計的分析、計量分析ともに、一通り終了させることができた。そうした研究の順調な進展により、次年度以降の研究の目的を明確化することができる。つまり今後は、こうした日本に焦点を当てた分析を世界貿易分析に拡張させ、世界各国の貿易データを整理して分析を行っていくことにより、世界での環境物品構造を明らかにすることとなる。さらに分析対象年を増加させることによって高度な計量分析を目指していくことができる。貿易自由化の効果分析に関しては、環境物品の個別品目について、ケーススタディを行っていくという方法を採用して、貿易構造分析と同時並行的に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度に行った日本のアジア太平洋地域における環境物品貿易の構造分析を受けて、今後は、世界各国の貿易統計データを用いて世界全体の環境物品貿易の構造を明らかにするための分析を行う。Global Trade Altas 配信貿易データを受けて、現在40カ国以上のデータが入手可能となっており、こうした貿易データを整理して分析目的に沿った形で加工していくことになる。一方、環境物品貿易分析対象年次を増加させることによって計量分析の高度化を目指していきたい。 分析手法については、生産工程フラグメンテーションのような中間財を対象とするグラヴィティ・モデルについては、従来型の特定化による分析では特に経済規模の変数の推定結果が過小評価されることが指摘されており、分析目的に即した形での適切なグラヴィティ・モデル構築に向けて理論分析を行う必要がある。 さらにその後の研究として、関税率引下げといった環境物品貿易の自由化の効果測定を行うことが必要となる。また同時に、太陽光パネル、風力発電用機器といった再生可能エネルギー産業などの個別物品を取り上げて産業組織の分析を行い、さらに各国の貿易政策の議論を踏まえて、興味深い具体的なケーススタディに繋げていくことも重要である。 3年目と4年目の計画は今後に変更される可能性もあるが、2年目の2014年度の研究に関しては、今年度の研究の延長として、世界各国の貿易データをフルに活用した環境物品の世界貿易構造とその要因分析を適切な計量分析手法を用いて遂行していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は初年度であり、2014年度以降に大量に必要となる統計データ配信に使用するために残金を残す結果となった。 2014年度中に研究に用いる貿易データの配信サービス、Gloal Trade Atlasの代金に全額使用する計画を立てている。
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