研究概要 |
昨年度の代表的な研究実績は下記の3点である. (1) 36th IAEEにて「Analysis of Market Conduct and Performance in Electricity Markets」というタイトルで研究報告を行った. この概要を述べる. これまでの研究成果(需要量変動が不確実な寡占市場において供給者が戦略的に行動するモデルにおいて導出されるNash均衡におけるスポット価格式)を用いて, Pennsylvania New Jersey and Maryland (PJM)のマークアップを計測し, それを市場の集中度から形成される部分と供給者たちの平均的なリスクへの態度から形成される部分へと分解した. (2) 13th WCTRにて「Relationship between Port Charges and Capacity Investment under Uncertain Demand」というタイトルで研究報告を行った. これまでの研究成果を港湾サービスの供給に関わる競争へ修正し, 価格競争だけでなくcapacity investmentについての競争も考慮したモデルについての一つの解について報告した. (3) 6th ICASLにて「An Empirical Analysis on Risk Attitudes in a Shipping Freight Market」というタイトルで研究報告を行った. この研究もこれまでの研究成果(shipping freight rateの評価モデル)に基づいている. その価格式から算出される市場参加者たちの平均的なリスクへの態度を用いて, FFA(Freight Forward Agreement)価格と関連する商品先物価格の関連を見つけることを試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究成果は, 貯蔵不可能な財が取引されている市場の競争度の計測を目的とするモデルの構築とそのモデルを基にしたデータ分析方法の開発である. 2013年度には, そのモデルおよびそのモデルに基づく簡単なデータ分析結果をまとめた論文``An Oligopoly Model for Market Performance Analysis with an Application to Electricity Market''(現在のタイトル)を国際的な学術雑誌へ投稿した. しかし, 採択には至らなかった. そこで, この論文に修正を加えて他誌へ投稿するための準備をしている. この修正作業の過程でモデルが持つ興味深い性質(マークアップの分解に関わる性質)やモデルの中でのリスクへの態度と既存研究との新たな関連を発見することもあった. このような発見もあり, 論文の修正作業に予定よりも多くの時間を費やすことになった. 以上が研究の公表に遅れが生じている主な原因である. なお, 論文投稿後の査読に要する時間および査読結果についてはかなり不確定な要素が大きいこともここに記しておく. ただし, 投稿論文の修正過程においていくつかの新たな発見をしたことはこの研究それ自身の内容がより豊富になったと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度については, これまでに本研究で構築したモデルを基にしたデータ分析を中心に行なって行く予定である. 具体的には, 日本卸電力取引所(Japan Electric Power Exchange, JEPX)とNord Poolを対象とするデータ分析を早々に進めて行く予定である. そして, 2013年度に行なったPennsylvania, New Jersey and Maryland (PJM) marketの結果と比較をして行くことを考えている. この研究にあたっては, 井手秀樹先生(慶応大学), 山内弘隆先生(一橋大学), 鳥居昭夫先生(中央大学), 竹中康治先生(日本大学), 松川勇先生(武蔵大学), 服部徹先生(電力中央研究所)などの方々からアドバイスを頂きながら適切な比較分析を行ないたいと考えている. 次に, これまでの研究で得られたモデルに基づくFFA価格と関連する商品先物価格の関連性の分析については, 手塚広一郎先生(日本大学)と石坂元一先生(福岡大学)との共同研究という形で進めて行く予定である. ただし, この研究においては複数系列のFFAデータの入手という課題がある. これが解決しない場合の他の方法も同時に考えて行く予定である.
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