研究課題/領域番号 |
25380324
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
近藤 広紀 上智大学, 経済学部, 教授 (30324221)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 都市経済学 / 新しい経済地理モデル / 人口移動 / 人的資本 / 家族の経済学 / 産業集積 |
研究概要 |
家族内においてなされる様々な意思決定--就労・居住地域の決定,親子の同居・別居の決定,教育投資や仕送りなどの所得移転の決定--が,地域間分業パターンの影響を受けるのか,また逆に地域間分業パターンに影響を与えるのかを分析する.そして,教育や社会保障等に関する政策が,こうした家族内意思決定や地域間分業パターンに,どのような影響を与えるのかを分析する.平成25年度は,この流れのうち,主に(1)家計の意思決定を定式化することを目的としており,(2)家計の意思決定が地域間分業体制に与える影響や,(3)政策の影響についての分析は,26年度以降の目的としていた. (1)に関して,具体的に,居住地域の経済的・地理的特性--その地域が都市圏であるとすれば,他の都市圏と比較してどれくらい大きく,どれくらい離れているか,逆に地方圏であるとすれば,都市圏までどのくらい離れているか--が,その地域の家族内の意思決定,特に,子世代は進学するのか,親から子への教育投資はどのようになるのかについて考察した. そのために,親から子への教育投資と,家庭内での公共財の存在や,子から親への所得移転,介護サービス提供などを取り入れた,3世代から成る世代重複モデルを構築した.そして,賃金や,高学歴を活かすことのできる就労機会などが異なる多数地域の想定のもとで,この世代重複モデルを分析した.結果として,地域ごとの大学進学率の差異や,人口移動のパターン,結果として観察される地域ごとの人口構成の違いなどを,現実に近い形で説明できた. なお,上記(2)や(3)については,26年度以降の目的ではあるが,関連する私の過去の研究をまとめて再構成し直し,26年度以降に,25年度に構築した家計の意思決定の枠組みを取り入れられるように準備を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の箇所で述べた研究の諸段階のうち,(1)家計の意思決定の定式化 について,理論分析を進めることができた.その一方で,このモデルの妥当性を検証するために用いるデータの整備は遅れている.都道府県単位よりも細かい地域単位のデータや,逆に都道府県をまたぐこともある都市雇用圏単位の関連データを整備し,モデルの結果は妥当なのかを検証していくことが今後の課題となる. 一方,研究の諸段階のうち,もともと26年度以降に予定していた,(2)家計の意思決定が地域間分業体制に与える影響や,(3)政策の効果の分析については,関連するこれまでの私の研究について,とりまとめ,問題点を把握し,単純化を行う一方で,地域の数を増やし,これら地域間の地理的位置関係も取り入れるといった側面について拡張していくという作業を通じて,25年度のうちに定式化した(1)家計の意思決定を組み込んで分析できる基盤となる枠組みが構築されつつある. 以上を総合して,おおむね順調に推移していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った「家計サイド」の分析--家族内の意思決定を定式化し,その妥当性を検証したもの--に,「新しい経済地理モデル」の分野で研究されているような「生産サイド」の分析を組み込む.これにより,均衡における都市集積のパターン,すなわち,地域の産業集積・人口集中のパターン立地を明らかにしていきたい. 「生産サイド」について,まず極力コンパクトな形式で定式化し,いったん均衡を求めてみる.もし,現れた均衡が,現実と見合った形となっておれば,「生産サイド」をより複雑な形へと発展させ,もし現実から離れた形となっておれば,「家計サイド」の定式化に戻ってモデルを組み立て直すという作業の積み重ねと繰り返しによって,モデルを完成させていくという方法を採用する. こうして得たモデルを分析することにより,現実の都市集積のパターンが再現されるだけでなく,期待形成のされ方,採用される政策により,他の都市集積パターンも実現し得たことが分かる. 特に,この研究で構築されるモデルにおいては,家族内の意思決定を考慮している分だけ,従来までの「新しい経済地理モデル」の研究よりも,一層多種多様な,地域間の人口配分や,人的資本配分,様々な産業の立地のパターンが導出されるだろう. もしも「一極集中+地域間の教育水準格差が顕著」な状態と「多極的な都市発展+どの地域も教育水準が高くなる」状態の,いずれの状態も均衡として成立する場合,いずれの状態がより望ましいのか,産業政策だけではなく,社会保障政策,教育政策次第でより望ましい状態へ移行することは可能なのかについて,得られたモデルを元に,分析していきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定の物品が在庫切れだったため,購入計画を次年度へ移行させた. 昨年に購入することのできなかった物品の購入のため.
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