気候変動が日本の農業部門に与える影響を明らかにするために、国内の主要な農作物21品目に関して、1.作物別の土地生産性モデル、2.各作物の土地利用モデルを構築し、1996年~2006年にわたって市町村レベルのパネルデータを用いて推計した。また、1、2の推計結果を利用し、将来の気温上昇が農業部門に与える影響の評価した。得られた主要な結果は下記の通り。 (1)気候変数は全ての作物の生産性に重要な影響を持ち、特に気温上昇は、国内作物の生産性にほぼ負の影響を与えることが確認された。ただし、北海道など一部の寒冷地域では、みかんやナス科の作物を中心に、温暖な気候に適した品目の生産性が向上する傾向がみられた。 (2)土地利用関数の推計結果から、気温上昇による生産性の低下に伴い、冷涼な気候を好むいちごやりんご、葉菜類野菜(はくさい、ほうれんそう、キャベツ)などの生産農家が、比較的温暖な気候に強い米やきゅうり、みかんなどの品目に転換する可能性が示唆された。一方で、生産性の低下度合いは小さいものの、生産コストの大きいナス科野菜(トマト、ナス、ピーマン)の作付面積は減少することが示された。 (3)2つのモデルの推計結果を利用して、気温が現在から3℃上昇した場合の、農業部門への影響を分析した。この結果、農家が作物別土地利用を変更しなかった場合の損失額は6380億円、農家の作物転換を考慮した場合の損失額は6603億円となった。これは、作物により異なる労働条件、深刻な高齢化、兼業農家比率の高い日本の農業の特性が作物選択に影響を及ぼすからである。 (4)産出額の変化率を都道府県別に算出したところ、西日本で産出額の低下は著しく、東日本で比較的緩やかであることが示された。この結果より、もともと冷涼な気候にある東日本では、温暖な気候に適した作物の生産性の向上が、その他の作物の生産性低下による損失を緩和することが確認された。
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