研究初年度より以下の2つの研究計画の内、主に1のモデルの改良を目指してきた。 (1)多国籍企業が先進国・途上国という2つの異なる市場に製品を供給する際の、製品の品質決定及び、品質に関わる費用の役割を分析する。(2)2国の対称的な市場における製品の質の分布が、製品の品質に関わる費用その他のパラメータが1 国のみで変化した時に、2国間の貿易構造と合わせてどのように変化するかを分析する。 しかし(1)のモデルについて、学会等で指摘された以下の2つの問題点を克服することができなかった。①複占の価格競争において、2企業両方が限界費用(一定を仮定)に等しい価格を付けてしまう均衡を排除できない。②各国消費者の効用関数における製品品質への感応度が消費者の所得水準に依存するという仮定はアドホックであり、両国の消費者の効用関数は同じで所得水準が消費パターンの違いを生み出すモデルを考察すべきである。 特に問題点②に関連して、途上国における消費財産業の現状や(多国籍)企業の製品戦略の事例とも反する点があることがわかってきた。例えば途上国の貧困層(いわゆるBottom of Pyramid)をターゲットとしたビジネスの可能性を初めて提唱したC.K. Prahalad の著作Next Marketによれば、新興国の貧困層も所得が上の層と同様に、ぜいたく品への嗜好を持つとのことである。1次元での垂直的差別化を仮定する現在の定式化では、嗜好は同じだが所得の低い消費者に対する製品戦略、例えば消費財であれば先進国よりも少ない量を1単位として販売するなどの企業行動をうまく定式化できない。 そこで今後は上記の計画(2)をさらに発展させることを目指し、その準備を進めている。準備の一環として、関連論文"Trading Company and Indirect Exports"を国際学会で報告した。
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