リアルタイムデータを用いた研究は,欧米の中央銀行を中心に蓄積が進み,政策決定において考慮すべき要因と捉えられている.本研究では独自に日本のリアルタイムデータのデータベースを作成・公表してきた.リアルタイムと改定後のデータを用いた政策評価の違い,民間経済主体と政策当局における私的情報の相違について検討する. 財政政策の効果について,先行研究と同一のモデルおよび同一の推計期間で,統計データのみを入れ替えた場合,得られる結果は大きく異なる.データ改定のみの影響で財政支出乗数の水準は変動し,90年代に必ずしも財政政策の効果が低下したとはいえない.93SNA移行後クラウディングアウト効果が確認でき,財政支出乗数は低下している.他方,連鎖方式移行後には財政支出のショックの民間消費への効果が2倍程度高まることから,財政支出乗数は上昇している. GDPの基準や推計方法の変更が,モデル推計に結果に大きな影響を与える. また,財政政策のスタンスについては,リアルタイムベースでは経済変動に対して増幅的であるものの,改定後のデータでは抑制的であると評価できる.この結果は欧州における先行研究と同様となった. 民間予測において,公開情報がより少ない状況では,民間予測は日銀予測の影響を受けていることがわかる.つまり,日銀予測に対して民間主体は何かしらの私的情報の存在を意識しているとみられる.しかし,予測の優劣で見れば,日銀予測及び民間予測で違いはなさそうである.つまり,日銀にはGDPやCPIの予測に対する私的な情報は有していないことが伺える. 本研究では,速報を重視して意思決定の影響を確認できた.速報値はその後,マイナスがプラスの伸び(その逆も)など当初とはまったく異なる数値に改定される可能性もある.たとえ,ゼロを挟み,コンマ1位以下の数値であっても,経済活動に大きな影響を与えるのが現実であることが伺える.
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