多くの国々で少子・高齢化の進行とともに顕在化している人口構造の変化が、経済全体の生産性あるいは経済成長にどのような影響をもたらすか、日本の都道府県パネル・データを用いて、マクロ経済分析の視点からその関係を明らかにすること、これが本研究の目的である。 先行研究が示しているように、人口構造の変化にともなう労働人口の減少が、全体としての付加価値生産能力を低下させる可能性は高いと考えられるが、労働者の属性として、人的資本ないし高等教育による労働の質の向上効果を直接的にとらえた研究については、国外のみならず国内の事例においても積極的な展開は見られていない。少子・高齢化、労働人口減少という深刻な経済問題に直面している日本において、高等教育ないし人的資本がマクロ生産性にいかなる影響を与えるかという視点は、きわめて重要であると考えられる。 本研究では、『就業構造基本調査』(総務省統計局)を中心にした統計資料(1977-2012、5年間隔)を用いて、都道府県別の有業者を、年齢(55歳以上と54歳以下)、学歴(短大・大学卒以上と高卒以下)で区分し、それらが有業者人口に占める割合と、資本集約度、製造業付加価値割合、失業率を説明変数として、有業者一人あたり実質県内総生産への回帰分析を行った。頑健な推定結果が得られ、高齢労働者の割合の増加は、マクロ労働生産性の変化に対して負の影響をもたらしている(55歳以上労働者の割合が1パーセント上昇すると労働生産性は0.09パーセント低下)。しかしながら、55歳以上ではあっても、短大・大学卒以上の学歴を持つ労働者人口割合の増加は、マクロ労働生産性の変化に対して正の効果を持つ(高齢かつ高学歴労働者の割合が1パーセント上昇すると、労働生産性は、0.023パーセント上昇)、さらには、大学教育の効果は、高齢者の場合に相対的に大きくあらわれる、という結果が得られた。
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