研究課題/領域番号 |
25380349
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
熊谷 聡 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (20450504)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中進国の罠 / 貿易構造 / 純輸出比率 |
研究実績の概要 |
引き続き貿易データを分析することにより、いくつかの興味深い事実を発見することができた。まず「罠」の定義として、自国通貨建ての一人当たり所得が10年前と比較して同じかマイナスという基準を採用する。これに従い、世界各国の1960-2010年までのサンプルを、罠=停滞サンプルと成長サンプルに分割する。その上で、各国の貿易品目をBEC分類を元に再構成して「資本財・部品」「消費財」「一次産品」「加工品」に4分類し、それぞれについて「純輸出比率(NXR)」を求める。 成長サンプルについて各品目のNXRを所得水準に回帰すると、1)一次産品のNXRは所得水準の上昇と共に正から負に転換する、2)消費財のNXRは低所得段階では負であるが上位中所得段階で正に転じ、高所得段階では再度負に転じる、3)加工品のNXRは所得に比例して直線的に上昇する、4)資本財・部品については、低所得・下位中所得段階では大幅な負であるが、上位中所得段階から急激に上昇する、ということが明らかになる。 停滞サンプルについて同様の関係をみると、1)一次産品のNXRは所得水準にかかわらず高い、2)消費財のNXRは所得水準が上がってもほとんど高まらず、上位中所得段階からわずかに低下し始める、3)加工品のNXRは所得と共に直線的に上昇する、4)資本財・部品のNXRは所得が上がっても大幅な負のままである、ということが分かる。 資料検討と統計データ分析の試行錯誤によってこうした直感的かつ興味深い結果を得ることが出来た。中進国の罠は、その存在を明確に示すこと用意ではなく、先行文献でも複雑な定義が用いられている。今回、直感的な定義で成長国と停滞国を分類し、貿易構造に明確な差違を発見したことには大きな意味がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試行錯誤の結果、品目別の純輸出比率について、意味のある分析結果を得たことで、中所得国の罠のメカニズムついて、明確な仮説を得ることができた。すなわち、「成長国では消費財から部品・資本財への産業高度化が進む一方で、停滞国では一次産品の比較優位が高すぎて素材産業を除いて製造業が育たない」というものである。同時に、中所得国をどのように定義するか、「罠」をどう定義するか、という問題について、本研究内では確定することができたことも大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現時点までの研究で確立した新たな仮説について、さまざまな点から検証を深めていきた。まず、品目別純輸出比率を使った分析について、統計的な確からしさをより高めていきたい。具体的には、説明変数として人的資本や製造業雇用者数などを加えても、結果が頑健であるかを確認したい。 また、マレーシアを含むいくつかの国について、品目別純輸出比率の移り変わりを個別に確認し、歴史的な経済状況と付き合わせることで、産業高度化が順調であったかどうかを品目別輸出比率がうまく捉えているかを確認したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
貿易データを中心とした統計処理に多くの時間がかかり、現地調査を効果的に行う段階にまで達していなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
貿易データの分析により、確認すべき仮説がより明確になったため、本年度は効果的な現地調査を行うことができる。
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