研究課題/領域番号 |
25380354
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
大森 正博 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (40286000)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 救命救急医療 / 規模の経済性 / 規制 |
研究実績の概要 |
救命救急医療機関の立地のあり方と価格規制のあり方についての理論的研究は、初年度に残した先行研究の検討、文献の概観を平成26年度中に終了した。その上で、救命救急医療制度のモデルの検討を行った。救命救急医療は、生命の保持のために緊急の診療を必要とする性格を持っているために、患者と救命救急医療機関の間の距離が重要な意味を持つ。言い換えれば、救命救急医療機関の立地がサービスの品質の重要な要素になる。また、救命救急医療は、確率的に生じる需要に対応するために、一定の種類、数量の人員と設備を保持しなければならないことから、固定費用が大きく、規模の経済性が働きやすい性質を持っている。また、患者が確率的な需要を持っていることにより、病院は余剰設備を持たなければならない。この条件下での最適な救命救急医療の分業のありかた、料金規制のあり方について、検討を行い、理論モデルの完成の段階に入っている。残されている検討課題は、救命救急医療は、複数の医療機関で分業している場合が多いが、その点をモデルの中で考慮に入れることである。 また、救命救急医療の現状について、地域を限定して、文献調査、統計の収集を行い、最終年度のモデルの実証研究の準備を行った。また、オーストラリア、オランダの救命救急医療の現状について、文献調査を行い、海外の制度における理論モデルの適合可能性について検討を行う準備をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
規模の経済性を持つ救命救急医療機関の立地のあり方と価格規制のあり方についての理論的研究は、まずは、初年度に残した文献の概観を終了した。救命救急医療制度のモデルの構築を試み、検討課題を残しながらも、一定の結果を残した。 救命救急医療機関の立地を意味する患者と救命救急医療機関の間の距離を、救命救急医療の品質と見なし、救命救急医療の固定費用、規模の経済性を考慮に入れた下で、最適な救命救急医療のありかたについてモデル分析を行った。しかし、このモデルは、最初から高度救命救急医療を必要とするような場合を想定した医療機関、すなわち病院によるサービス供給を念頭に置いており、患者の症状が軽度から重度まで分布があり、患者が自分の症状を十分に判断できないという、情報の非対称性を前提とした救命救急医療の供給体制については、検討できていない。また、規制のあり方の検討も残された課題である。 救命救急医療の現状について、地域を限定して、文献調査、統計の収集を行い、最終年度のモデルの実証研究の準備を行ったが、そこで十分に得られなかった情報を得るためのヒアリング調査が十分に行えていない。また、オーストラリア、オランダの救命救急医療の現状について、文献調査を行い、モデルの海外の制度における適合可能性について検討を行う準備をしたが、さらに数カ国の調査をする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、救命救急医療制度の理論モデルを完成させること、および実証研究を行うことを目的とする。24時間対応を含む、患者の需要の不確実性に起因する規模の経済性、サービスの品質の要素として、患者と医療機関の距離の重要性、という救命救急医療の特徴を取り入れた理論モデルを平成26年度までに考察したが、平成27年度は、患者の症状と必要な医療サービスに関する情報の非対称性、異なる機能を持つ医療機関の存在を前提として、救命救急医療の分業のあり方も分析できるモデルの考察を行うことを目的とする。この場合、患者の選択という新たな問題も考える必要があり、消費者の意思決定の要素を取り入れたモデルにする必要がある。理論モデルの考察と同時に、救命救急医療制度における望ましい規制のあり方を、価格規制を中心にして考察する。 また、理論モデルを、日本の地域の救命救急医療のデータを使って検証することを試みる。平成26年度までの予備的研究の中で、数的データが十分に得られないことが明らかになっていることから、ヒアリング調査のデータも含めて、質的データを収集し、理論モデルを検証する。 モデルの検証の方策として、異なる国の救命救急医療制度を比較する国際比較研究も有益であり、平成26年度までの収集したオランダ、オーストラリアのデータも含めて、さらに質的データを集めて、理論モデルの検証を行う。
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