救命救急医療制度の理論モデルを検討した。救命救急医療は、需要・供給について、以下のような性質を持っている。需要に影響を与える要因として、3点挙げられる。第一に、需要の不確実性、第二に、被る病気・けがの重症度、第三に、治療を受けられるまでの時間的費用(距離)である。供給サイドでは、固定費用とそれに伴う規模の経済性が重要である。24時間体制で診療体制を整えるためには、医師、看護師、コメディカルスタッフが常駐している必要があることから、労働も固定的生産要素になる。また、重症度の高い患者に対応するためには、検査機器、診療設備も相応のものが必要になり、固定費用の一部を構成する。そして、患者と救命救急医療機関との距離が患者の医療需要に影響を与える限りは、救命救急医療機関が、どの水準の救命救急医療サービスを提供するかは、患者の分布に依存している。 救命救急医療機関の最適化行動は、患者の分布を所与とすると、社会的には、セカンドベストになる。規模の経済性、患者の厚生も考慮して、社会的厚生を改善するためには、救命救急医療機関の配置の変更を含めて、救命救急医療機関に対する規制が必要である。 次に、上記で所与とした条件を変化させた場合に生じる結果を検討した。第一に、需要の不確実性について、その頻度、発生した事象の程度が異なる場合を検討した。第二に、供給サイドの生産の効率性について、検討した。本モデルでは、地域において1者が供給することになり、救命救急医療機関が独占的行動をする結果、規模の経済性が発揮できない状況になるが、効率的なサービス供給の観点から、改善策があるかどうか検討した。第三に、費用負担をどの様に行うべきかという所得分配に関わる問題についても、考察を行った。 これらの理論的研究に基づいて、理論的帰結、考察が該当するかどうか、複数の都道府県の報告書、データ等を用いて、検証を行った。
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