本研究では、勤労者に対する今後の所得保障政策のあり方を検討するため、最低賃金の改定が労働需給への影響を通じて、最終的な所得分布に及ぼす効果を実証的に検証する。また、近年、最低賃金との整合性が議論されている生活保護について、主に母子家庭という稼働可能な世帯を対象として、両者の時系列的・地域的変動が福祉受給と就業に与える影響を明らかにする。従来、稼働能力がない世帯に対しては生活保護制度が,稼働可能な世帯に対しては最低賃金制度が独立に分析されてきたのに対して、本研究では、潜在的・顕在的な福祉受給者でありかつ稼働可能な世帯である母子家庭に着目することで、勤労者に対する所得保障政策を総合的に評価することを目的とする。 研究初年度は、生活保護と最低賃金が稼働可能世帯の福祉受給と就業に及ぼす効果の検証について傾注し、理論的フレームワークを構築するための関連文献のサーベイと、地域別のデータベースの構築作業を行った。リサーチ・アシスタントの協力を得て、1995年から2012年までの『生活保護手帳』記載の級地別・世帯人員別の生活保護額、ならびに地域別最低賃金額、就業状況のデータベースを構築した。2014年度は本データに基づく実証結果を論文にまとめる。また、わが国の賃金格差の背景にある企業内の賃金構造について、企業規模間の格差に加えて、新たな要因としての社齢に注目し、わが国の賃金データを用いてその効果を検証した。その結果、他の要因を一定として、社齢が賃金に及ぼす効果は負であるが、勤続に伴う賃金の上昇率には正の効果があるとの結果を得て、本成果を国際ワークショップにおいて報告した。
|