本研究では、勤労者に対する今後の所得保障政策のあり方を検討するため、最低賃金の改定が労働需給への影響を通じて、最終的な所得分布に及ぼす効果を実証的に検証する。また、近年、最低賃金との整合性が議論されている生活保護について、主に母子家庭という稼働可能な世帯を対象として、両者の時系列的・地域的変動が福祉受給と就業に与える影響を明らかにする。従来、稼働能力がない世帯に対しては生活保護制度が,稼働可能な世帯に対しては最低賃金制度が独立に分析されてきたのに対して、本研究では、潜在的・顕在的な福祉受給者でありかつ稼働可能な世帯である母子家庭に着目することで、勤労者に対する所得保障政策を総合的に評価することを目的とする。 平成29年度は、生活保護と労働供給に関する市区町村別データに基づく研究結果を、国内学会ならびに国内外の研究会において報告し、英文論文としてとりまとめた。研究成果は、公的機関のディスカッションペーパーとしてまもなく公表される予定であり、速やかに国際学術誌への投稿を進める。また、貧困対策と生活保護制度に関する国内外の研究動向について、自身の研究を含めて労働市場の観点から整理した論文を執筆し、この成果も平成30年後半には公刊予定である。 さらに、最低賃金が貧困率に及ぼす効果について、前年度のコメントを踏まえて、新たに政府統計の調査票情報を申請・利用した。分析結果を国内の研究会で報告し、ディスカッションペーパーとして公表する準備を進めている。
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