本研究は高齢化の進展により、今後、確実に増加する医療・介護サービス需要に対して、各サービスの質を維持しつつ効率的な供給体制をいかにすれば構築できるかを経済理論により分析することを目的としている。 平成25年度(初年度)は診療報酬と介護報酬をバンドリングさせた包括的診療報酬制度の基本的特徴を考察した。その結果、通常の報酬体系の下では、医療・介護サービス間の代替性の程度が過剰診療などのモラルハザードを引き起こすが、包括的報酬制度の利用により上記モラルハザードを是正できることが確認できた。平成26年度は、包括的診療報酬制度を用いて、複数の事業者間で医療・介護サービスが一体的に供給される状況をホテリングモデルにより、定式化し理論的に検討した。その結果、医療・介護サービス間にシナジー効果が存在する場合、医療・介護サービスの一体的供給は効率性を高めることが明らかになった。 以上の分析を踏まえ、平成27年度(最終年度)は、包括的診療報酬をファイナンスする際、調達コストが発生することを明示的に反映させたモデルを構築し、分析した。主要な分析結果は、連携による医療サービスコストが大幅に低下し、調達コストパラメータが低い場合あるいはサービス利用者の自己負担率が高い場合には、医療・介護報酬を抑制できるだけでなく、医療・介護サービスの質も改善することを明らかにした点である。このことは、公共部門による補助金などの政策対応が必要となることを示唆する。
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