前年度に引き続き、診断群分類別包括支払い方式(DPC/PDPS)と呼ばれる新たな報酬支払い方式の導入が、病院間の戦略的行動を通して医療費にどのような影響を与えるかについて分析している。医療費への影響を見るに際しては、各病院の利潤の増減が医療費の増減と密接に関係してくるため、自病院およびライバル病院がDPC対象病院となるかどうかに応じて、病院の利潤がどう変化するかをDPCへの参入行動から推定している。 日本のDPC制度の特徴の1つは、新たな報酬支払い方式が適用される DPC対象病院になるか、あるいは従来の出来高払いの報酬方式にとどまるかを病院自身が自発的に選択できることである。この場合、単純に考えると、ある病院が出来高払い制からDPC制への移行(参入)を選択したとすれば「病院にとって、出来高払い制よりDPC制の方が利潤が大きい」からと推測できる。そして医療費への影響は、DPC制への参入によって病院の利潤が増えるのであれば、医療費も増加してしまうのではないかと考えられる。しかし、病院のDPC参入行動と利潤に関するこの単純な思考が直ちに当てはまるのは、医療サービスの供給者が1病院しかないような、独占的な場合に限られる。現実の入院サービス市場は独占市場では無く、複数の病院が互いにライバル関係にある。ライバル病院の行動に応じて、自病院の利潤も変化するし、この様な場合には、全病院が出来高払い制にいる場合に比べ自病院の利潤が低下するとしてもDPCへ移行するということが起こりえる。そこで、現実に観察された病院のDPC参入行動から病院の利潤を推定することで、DPC参加の決定に関する病院間での戦略的相互依存の有無・戦略的相互依存の性質、に関する実証分析を行った。 しかし、データに問題があるためか、安定した推定結果が得られていないため、推定作業を継続している。
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