本研究の目的は、次世代が負担する同化コストを考慮し未熟練労働者を受け入れた場合の効果を分析したJinno(2011)を拡張し、労働の代替性・補完性、および未熟練労働市場における失業を考慮したモデルの構築、日本経済に応用したシミュレーション分析を行うことである。 本年度は、最終年度であり、上記モデルの構築を試みたものの、未完成となってしまった。しかし、給付率一定型の年金方式の下、移民者の受け入れに関する財政的な純便益を分析するモデルを構築し、Singapore Economic Review Conference 2017にて発表した。その後、論文内容を発展させ、MPRA Paperにおいて"Calculating the net benefit of admitting immigrants under the defined-return-ratio pay-as-you-go pension system" (Working Paper)としてまとめられている。 研究成果としては、給付率一定型の年金方式で移民者を受け入れた場合、たとえ移民者の次世代が受入国に同化するため労働生産性を低下させるという、受入国にとっての中長期的な負担を考慮した場合であっても、移民者の受け入れによって受入国の純便益が無条件で改善することが導出された。これは、労働者が増えることで保険料率が内生的に低水準に調節され、それに依存するような形で年金給付が決定されるメカニズムがあるため、直接的な保険料負担の軽減がそれ以降の生産性低下による負担増よりも効果が上回るためだと考えられる。 これまで中長期的な影響を考慮したうえで移民者の受け入れに関する財政的な効果に関して分析を行ってきた。本来の失業や補完性を考慮したモデルの構築には至らなかったものの、研究成果を一定程度は挙げられたと考えている。
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