研究課題/領域番号 |
25380379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
岑 智偉 京都産業大学, 経済学部, 教授 (30340433)
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研究分担者 |
土居 潤子 関西大学, 経済学部, 教授 (00367947)
青木 芳将 椙山女学園大学, 現代マネジメント学部, 准教授 (90572975)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腐敗 / 灰色収入 / エンゲル係数法 / 推計収入 / 公表収入 / 中国家計収入調査 / 10分位 / 5分位 |
研究概要 |
本研究の目的は、腐敗がもたらす経済的影響について、「灰色収入」という観点から理論・実証的に明らかにすることである。本研究では、1、腐敗による灰色収入の発生と分配メカニズムを説明する理論モデルを構築する。2、理論的に示された灰色収入の大きさを利用可能な家計調査データ(例えば、中国家計収入調査 (CHIP))で測定するための方法を構築する。3、灰色収入が技術進歩や所得格差などにどのような影響を及ぼすかについて、理論・実証分析で明らかにする。 本年度では、本研究の基礎研究である王(2010)の分析方法(理論設定及び実証方法)の妥当性について、試験的に2007年のCHIPデータを用いて検証を行った。主な結果は次の通りである。まず、王(2010)と同様の方法でCHIPデータを用いた計測では、王(2010)の結果とは逆に、低い階層ほど「灰色収入」の推計額が大きいという結果を得た。このことは「灰色収入」が存在する場合、エンゲル係数と平均収入の間に必ずしも反比例関係が成立せず、王(2010)の「エンゲル係数法」はこのデータセットにフィットしていないことを意味する。このため、次に、より単純に「灰色収入」の計測を試みた。即ち、10分位と5分位ごとに各階層の平均収入とエンゲル係数を割り出すという方法で計測を行った。その結果、第1十分位(最低所得階層)を除けば、推計収入は統計局の公表収入を大きく上回っていることが分かった。また、第10十分位(最高所得階層)の収入の全収入に占める割合は39.7%であることも判明した。この結果は中国の所得不平等の深刻さを示している。以上の計測方法が正しければ、その方法に基づく推計結果により、2007年における中国の「灰色収入」規模は当該年のGDPの5.16%に相当する1.3 兆元であり、それは王(2010)より低いものの、決して低い水準ではないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに、1、青木・土居(研究分担者)は、外部性を伴う経済成長モデルに腐敗行動を組み込み、腐敗行動が経済成長にどのような影響を及ぼすかについて理論モデルの構築と試算を行っている。2、岑(研究代表者)・土居は2007年の中国家計収入調査 (CHIP)データなどを用いて、本研究の基礎研究である王(2010)の分析方法(理論設定及び実証方法)の妥当性について検証を行った。その研究成果は次年度のディスカッションペーパーにまとめる。3、岑はその他の中国家計調査データについても精査し、「灰色収入」の測定ができるようにデータの整備を行っている。4、研究代表者、研究分担者と研究連携者は共同で、日本を含む世界の実情及びデータを調査し「灰色収入」の測定が可能であるような国を選び出し、「エンゲル係数法」などで各国の「灰色収入」の計測を試みる。これらを元に、次年度以降での理論・実証分析のための方向性を明らかにする。5、各自の課題については検討会を開催し互いに報告・議論を行っている。 一方、予定していた中国での「灰色収入」をもたらす腐敗の現状に関する現地調査は日中関係問題や中国のPM2.5要因などで先送りとした。しかしながら、中国側との連絡は継続的に行っており状況が改善すれば現地調査を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後において、まず、今年度に残された現地調査や「エンゲル係数法」に基づく各国の「灰色収入」の計測と比較を行う。そして順次に以下の課題を完成していく。1、 灰色収入が所得格差に及ぼす影響について、技術進歩や失業を導入することで、それらがない場合に得られた結果と比較し、「灰色収入」が経済にもたらす影響(特に、経済成長や所得格差)についてより精緻化されたモデルを提示する(青木・土居)。2、腐敗による「灰色収入」の発生と分配メカニズムを説明する理論モデルを構築し、その上で、利用可能な家計調査データなどで測定するための方法を構築する(岑)。3、中国における各地域の「灰色収入」の測定と比較を行う(岑・星野・宝剣(連携研究者))。そして、理論で示される所得格差への影響について、実証分析により支持されるか逐一検証を行う。その後、世界のデータにおいても同じことを検証する。4、以上の結果を踏まえ、「灰色収入」が経済にもたらす影響について明らかになれば、今後の課題を含め公表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)岑(研究代表者)は、購入しようとした論文関係の計量ソフト(NLOGIT5アカデミック)は海外への発注商品であり、年度内の納品が間に合わないため、次年度の注文となった。 (2)土居(研究分担者)は、腐敗現状についての現地調査(中国)を予定していたが、日中関係問題や中国のPM2.5の要因などで先送りとした。 (1)計量ソフト(NLOGIT5アカデミック)の購入(岑) (2)海外現地調査の遂行(土居)
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