晩婚化の進行とともに出産年齢の高年齢化が進んでいる。本研究では、そのような事実確認のもと、出産年齢の違いが既婚女性の労働供給行動に及ぼす効果を統計的に検証した。出産と労働供給は互いに影響を及ぼし合う関係にあり、そこで出産が労働供給に及ぼす因果関係を統計的に検証することは技術的な困難を伴う。ここではそのような困難を克服するための工夫として、疫学の分野で発展してきた「動学的処理効果モデル(Dynamic Treatment Effects Model)」という分析枠組みを用い、実証分析を行った。分析の結果、労働力参加においては出産年齢の違いによる効果の差は見られなかった。しかしながら、一方で正規労働者として雇用される確率に関しては、出産年齢による効果の違いが観察された。 「動学的処理効果モデル」という分析枠組みは、変数間の動学的な相互依存関係から生ずる変数の内生性を克服する一つの分析手法である。ただ、経済学の分野における応用研究は世界的に見ても驚くほど少ないことから、そのような全く新たなアプローチで日本における既婚女性の労働供給行動に光をあてているという点で本研究は重要な意義を有すると考えられる。 出生率低下は日本が抱える最優先課題であり、政策形成のためには女性の出産行動と労働供給の関係に関する数量的な知識を必要とする。出産のタイミングが労働供給に及ぼす効果を検証するという本研究の試みは、出産・子育て支援策のターゲットを明らかにするという点で重要な研究であると位置付けられる。
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