2015年1月に公刊した論文「中国株式市場における「最大収益率効果」」の研究に関して、中国株式市場における投資家の行動経済学的な特徴が株価に与える影響をより明確に示すため、短期間のデータを用いた実証分析を行った。 平成27年度に行った研究では、これまで使用してきた月次収益率ではなく、日次収益率を使用し、より個人投資家が注目すると考えられる短期間の株価の動きが、投資家の過剰反応につながることを検証した。使用するデータは、中国上海証券取引所と深セン証券取引所に上場する株式を対象に、1994年12月から2014年12月までの期間の日次収益率である。これまでの研究と同様に過去の最大収益率とその後の収益率との関係を調べた。最大収益率は、過去5年間の最大収益率ではなく、過去1カ月の最大収益率を使用する。結果として、過去5年間の最大収益率を使用した場合と同様、過去1カ月の最大収益率の大きさに基づく5分位のポートフォリオについて、最大収益率が小さいポートフォリオと大きいポートフォリオの平均収益率の差が年率で8.86%もあることがわかった。また、この結果は、Fama-Frenchの3ファクター・モデルで検証しても、Fama-MacBethの二段階クロス・セクション回帰による分析を行っても変化しないことを確認した。 この研究における新しい発見は、中国株式市場に存在する「最大収益率効果」について、より短期間の最大収益率に関しても存在することを明らかにした点である。 「最大収益率効果」の研究に加えて、日本の株式市場に関して、企業の財務的危機(financial distress)の情報に対する株式市場の過剰反応に関する研究を行った。結果として、財務的危機のリスクが大きい企業の平均株式投資収益率が、リスク指標の大きさが小さい企業よりも有意に高いことを発見した。
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