最終年では、査読付き学術雑誌に投稿し、受理され、本研究を仕上げた。研究成果は、以下のようにまとめられる。 第一に、「世界的過剰貯蓄⇒グローバル・インバランス⇒世界金融危機」で定型化されてきた「経常収支黒字国=貯蓄超過国である中国や日本などから、経常収支赤字国=貯蓄不足国の米国へ」という「太平洋を跨いだ資本フロー」は、あくまでネットの資本フローに注目した神話に過ぎず、グロスの資本フローを重視すると、「経常収支赤字国(ないしは均衡国地域)である欧州から、経常収支赤字国への米国」という「大西洋を挟んだ資本フロー」が現実であった。 第二に、米国からのグロスの資本流出は、欧銀の在米支店が、米国のホールセール市場から調達した資金を、本国の親会社に送金したものであり、米国へのグロスの資本流入は、欧銀の本国親会社による米国のシャドー・バンキング・システム(以下SBSと略)を経由した貸出しであった。こうした国境を越えてホールセール市場から調達されるドル資金が、今日におけるグローバル流動性を形成している。 第三に、2010年のドット=フランク法、とりわけ同法に盛り込まれたボルカー・ルールによって銀行と証券の垣根が強化された。これはSBSから流動性を需要してきた投資銀行に対する規制である。他方、SBSに流動性を供給する側のMMFについては、2014年に米国証券取引委員会は、①固定NAVを廃止し変動NAVを採用、②市場が緊張状態に陥った場合、投資家に解約手数料を課し、解約を一時的に停止する「ゲート」を設けた。今後の国際金融規制としては、①GFC前に流動性が過剰(過大なレバレッジ)であったことに鑑み、自己資本比率規制より直接的な「レバレッジ規制」、②GFCに直面してヘアカット急騰し100%にまで達し流動性が枯渇(極端なデレバレッジ)していたことに鑑み、資産のうちいつでも現金化できる部分の比率を上げる「流動性規制」が重要になろう。
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