本年度(平成27年度)は、最終年度にあたるため、これまでのプロジェクトを総括するため、以下の2つの研究を行った。第1は、現下の世界経済の動向を深く理解するため、日本経済の長期低迷(secular stagnation)について分析を行った。日本は1990年代以降長期的に経済が停滞しており、「失われた20年」として知られている。この失われた20年の発生メカニズムを精査することによって、欧州や新興諸国で生じつつある長期停滞の可能性について重要な知見が得られるはずである。本研究では日本におけるバランスシート調整のプロセスの詳細な観察、潜在成長率(自然利子率)、期待利潤率(ト―ビンの限界q)の計測を行うことによって、日本の長期停滞の特徴を明らかにした(研究成果は、2015年10月のブリューゲル研究所(ベルギー)において報告された)。第2は、世界的な対外不均衡(グローバル・インバランス)の動向と世界金利の低下傾向について考察を行った。2000年代半ばに拡大したグローバル・インバランスはリーマンショック後に縮小したが、昨今再び拡大するという予測も出始めている。また世界的に見て長期金利は一層の低下を見せている。このような傾向はグローバルな資金余剰(あるいはグローバル流動性)の再拡大を促す可能性が高い。本研究では、世界主要国の貯蓄、投資、金利のパネルデータをセットし、最新のパネル時系列分析を用いて、上記の現象の背後に、世界的な投資減少がある点を明らかにしている(研究成果は、2016年3月の内閣府における国際シンポジウムにおいて報告された)。
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