今年度の研究課題は、買収ファンドによる日本企業への買収の過程において、そして買収の効果において、銀行はどのような役割を果たしているのかについてである。 銀行は戦後のメインバンクシステムの中で日本企業を監督する役割を果たしてきたが、近年その役割が失われつつある。むしろ、銀行は企業との関係で債権者としての利害関係を重視するようになり、債権者としての行動をとるようになっている。一方、業績不振の日本企業を規律付けする買収ファンドが増加し、新しい企業統治のメカニズムとして期待されている。その中で、債権者として重要な利害関係者である銀行は、買収ファンドによる日本企業への買収の過程で、どのようなメリットやコストを作り出しているのか、また、それが買収の効果に対してどのような影響を与えているのか、今年度の研究課題として実証研究を行ってきた。 買収において企業の取引先である銀行は資金だけでなく、情報、ビジネスノーハウや顧客ネットワークを提供することによって相乗効果を上げ、企業買収の成果に貢献できる。一方、利害衝突、すなわち、株主である買収ファンドと債権者である銀行との利害関係が不一致することによって起こる摩擦は企業買収の成果を妨げる。例えば、利害衝突の結果、アンダーインベストメントという問題がすでに提起された。 本研究は買収ファンドによる日本(上場)企業への買収案件約70件を対象に、上記仮説を検証している。株価データを使った検証では利害衝突によるコストを確認できた。これらの結果を頑丈性のあるものにするために、会計データを使った検証をさらに行う予定である。
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