最終年度は,前年度に提案した要介護状態別の死亡率を推定するモデル(混合Lee-Carterモデル)に対するベイズ推定法を考案し,それを我が国の介護データに対して適用した. 混合Lee-Carterモデルは,要介護状態の死亡数データがないという状況で各要介護状態の死亡率を求めようとするモデルであり,通常のLee-Carterモデルに要介護を表すパラメータを加法的に追加したものである.前年度は最尤法による推定を試みたが,その推定結果は不安定であった.また,最尤法を適用する際に用いたアルゴリズムでは,介護状態のカテゴリー数が大きくなると,計算負荷が著しく増加するという欠点があった.さらに,パラメータ識別性の不備も明らかになった.最終年度では,これら欠点を克服するため,モデルの新たな識別性条件を考案するとともに,ベイズ法による推定法を新たに考案した.要介護状態を表すパラメータの順序制約をモデル化するために,階層ベイズ型の事前分布を採用した. 以上の理論構築に基づいて,提案したモデルを我が国の介護データに対して適用した.状態として,非介護状態,要支援1・2及び要支援1を合わせた状態,要支援2,3,4,5に対応する状態の7つの状態を設定し,要介護状態別の死亡率の予測を行った.さらに,各状態の死亡率に対応する将来生存率の予測も行った.これらの推定においては,モデルが複雑なため,MCMC法と呼ばれるシミュレーション技術を用いた.予測結果は,直感に合致する安定した結果である.この成果は,論文にまとめるとともに,国内外の国際学会で報告した.
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