研究課題/領域番号 |
25380410
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
仁科 一彦 明治学院大学, 経済学部, 教授 (30094311)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | デリバティブ取引 / 米市場 / パレ-ト基準 / ボラティリティ |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまでに以下の成果を得ている。 ・先物市場が資源配分上の観点から「パレ-ト改善機能」を保証するか否かについて、どちらかに断定する一般的な結論を得ることは出来ない。先物取引の導入がいかなる条件の下でも資源配分を効率化するとは限らないことを抽象理論で再確認した。しかし先物市場を開いて自由な取引を促進すれば、取引費用の低減をはじめとして大きな貢献が得られることも明らかにされた。 ・米の先物市場が経済学の一般理論から示唆されるようなパレ-ト改善機能を持つためには、米の現物市場との関連を含めて、いくつかの問題を綿密に検討する必要があることを強調した。たとえば、世界で急増しているネット取引に対応するために、価格形成を現行の「板寄せ」(call auction pricing)から「ザラバ」(continuous auction pricing)に変更することについては以下のような検討が必要である。ザラバ取引によって市場の流動性が増加することは期待できるが、同時にいわゆるHFT(high frequency trading)に関わる問題を抱え込む可能性も否定できない。大規模なヘッジファンドが参画して先端的な取引が導入された場合に、長期的には問題ないとしても、米の現物市場に短期的な混乱をはじめとしていかなる影響を与えるかについて、慎重な検討が求められるであろう。 現行の商品先物市場で採用されているその他のデザインやル-ルに関しては、米の先物市場においても採用可能であると考えられる。たとえば、価格変動の「値幅制限」や「サ-キット・ブレイカ-」は有効と思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の現在までの進捗状況は、当初の研究目的に照らし合わせて、「おおむね順調に進展している」と判断できる。 その理由は、第一に、米先物市場が持つ一般的な経済機能に関して十分な理論的分析を重ねたことがある。そこからの結論として、必ずしもすべての先物取引がパレ-ト改善を保証するものではないが、取引のデザインとル-ルを適切に定めることにより大きな貢献が期待できることを確認した。とりわけ取引費用の削減効果は著しいものである。これは抽象理論においては先物の代替的な取引が可能ではあっても、実際の市場では先物取引の優越性が認められることを明らかにしたものでもある。 第二に、市場の流動性を高めるためには、米の取引とは無関係な金融機関その他のポートフォリオ投資家の参加が重要であることを強調した。この指摘はファイナンス理論の分析から示唆されるのみならず、原油をはじめとする多くの商品先物市場の経験からも容易に推察されることである。ただしそのためには、税制も含めて、投資主体に関わる制度を統一した形で合理的に再編成する必要があることを強調した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画の推進はひとえにわが国の米先物市場が本年8月に本上場商品として発足するか否かに依存する。なぜなら、これまでの本研究から得られた理論的帰結といくつかの実際的な検討結果を、実際の米先物市場から観察されるデ-タで検証できるか否かが最も重要な条件だからである。理論的分析の意義は、実証分析による評価を経て初めて認められると考えられる。 米先物市場の経済的機能については、すでに理論的な命題を実証的に検証する段階に達していると考えられ、その方向が開かれることが大切である。もし本格的な実証研究がスタ-トできれば、世界でも先頭を走る米の先物取引について詳細なデ-タを利用して、意義深い研究成果が期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
参加を約束していた国際セミナ-(アントワープ、ベルギ-)がテロの影響で中止になったために予算の未使用が生じた。このセミナーは結局2016年度にも開催されないことになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
2016年度派の繰り越し分は国内の研究会の費用か、新しい研究成果を紹介している書籍の購入に充てる予定である。
|