研究実績の概要 |
本研究は、労働市場における、正規雇用から非正規雇用への代替が、企業業績、企業価値、企業財務にいかなる変化を及ぼしているかを、理論的、実証的に解明する。申請時における研究実施計画に沿って、平成26年度は、前年度において行われた労働者の雇用形態と企業財務の関係を示した理論分析から得られた含意を検定するために、米国におけるデータを用いて分析を行った。具体的には、米国製造業における各産業別の全従業員における非正規従業員の比率と、企業レベルの財務指標、特に利益変動、企業価値、負債、現金保有との関係を検証した。理論モデル分析からは、正規雇用から非正規雇用への代替は、経営レバレッジの低下を通じて企業利益の変動の低下、さらに企業価値、負債の上昇、現金保有の低下をもたらす仮説が導出されたが、米国のデータ分析からは、現在までのところ仮説を明確に支持する結果は得られていない。実証結果が理論と整合的でない理由の一つとして考えられることは、非正規従業員の比率に対する明確な外生的なショックが存在しないために、企業財務変数と雇用戦略の間の内生性により、正規雇用から非正規雇用への代替の影響を正確に識別できない可能性である。この点に関する対策については後ほど言及する。以上が、平成26年度の本研究課題に関する研究実績であり、まだ学会発表、論文投稿を行う段階には至っていない。しかし、この論文の基礎となるChino (2014) は現在、Review of Finance誌において改訂要請 (revise and resubmit)を受けており、また、関連するChino, Choi, and Rice (2015) に関しては、平成26年度内に国内外での学会発表を複数回行った。
関連文献: Chino (2014): The power of labor unions and firm payout policies, working paper. Chino, Choi, and Rice (2015): Public sector unions and debt, working paper.
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