平成27年度は、アジア諸国の金融政策運営に関する研究について、平成25-26年度に収集したデータを使用し実証分析を進めた。分析に際しては、収集した資料に基づく情報から各国の推定の時期や変数を検討し、時系列分析の手法を用いた。具体的には、アジア危機後にインフレーション・ターゲッティングを導入したタイやフィリピンに加え、同政策を導入しなかったマレーシアとインドネシアを対象に、金融政策の事実上の操作指標はどのようなものだったのかを構造VARにより特定した。すなわち、金融政策の運営手段として、実際に、金利を用いて操作していたのか、それとも、非借入準備等の量的な政策手段も用いて操作していたのかを推定により考察した。 推定結果は現在まとめている最中ではあるものの、世界金融危機発生前、インドネシアやマレーシアにおける金融政策運営では金利操作を用いていたことが、タイでは非借入準備といった量的政策手段を使用していたことが、結果から示唆された。さらに、世界金融危機後の混乱の影響が小さくなった期間においては、インドネシアとマレーシアでは金利操作でなく、量的手段を用いた金融政策運営を行っていることを支持する結果が得られた。これは、先進国の世界金融危機以後の金融緩和に伴う世界的な流動性の増加が、これらの国の金融政策の運営に影響を与えた可能性を示している。 さらに、平成27年度においては、主に前年度に進めた新興国における国債利回りと国際資本移動の関係に関する研究をさらに進め、学会や研究会等で報告後、得られたコメントを参考に改訂し、論文を完成させた。本論文は、世界各国の10年物国債利回りに対して海外投資家による国債購入、債券購入、ポートフォリオ流入が及ぼした影響をパネル・データを用いて実証分析し、新興国と先進国の違いおよび世界金融危機以前と以後の違いに注目して考察したものである。
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