今年度は研究の最終年度であるため、従来の資料調査の成果を踏まえて、徳川期信濃川流域の地域的防災機構に関する資料調査、資料の解読とその大まかな位置付け、またそれらを利用した若干の分析成果について学会報告等を行った。 調査実績としては、新たな資料調査の作業として、まず信濃川上流域(千曲川流域)について長野県上田市(上塩尻村)での文献資料について再度調査を行い、特にこれまで不十分であった藤本蚕業歴史館に所蔵されている藤本善右衛門家文書等に含まれている上塩尻村の村行政関連文書から、19世紀化政期から天保期にかけての村寄合記録を新たに発見し、村内の川除等災害時のの共同作業に関する行政運用処理についての事実関係を明らかにすることが出来た。また信濃川下流域にあたる新潟における治水関連資料については、新潟市西蒲区旧巻町の町史編纂資料の中に、近世期の河川災害関係の文書および調査資料が残されており、その撮影と整理作業を行った。なお、新潟県立文書館所蔵文書から治水(排水)関連の文書資料を多く取得することが出来た。 本研究は、基本的に信濃川流域の災害の実態および治水と防水の地域住民組織にかかわる文書資料の調査を行うことが目的であるが、結果として洪水災害ダメージに対する村落社会の対応とその組織の一端が明らかになったので、上田領における天保の凶作への組織的対応との関わりで、それら洪水対応組織の実例を含む内容での学会報告を行った(スペイン、ジローナで開催されるヨーロッパ農村史学会=2015 International Conference of the European Rural History)。 なお、年度末研究会(於新潟大学)において収集した資料の状況と新潟における治水組織の実態についての報告検討会を実施した。この研究成果は、今後、基礎資料データのまとめとその公開、またそれらを利用した研究プロジェクトの策定を計画している。
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