研究の全体計画である、化粧品産業とトイレタリー産業におけるアジア展開の歴史を調査研究し、新興国市場戦略への知見を探るという目的に照らして、本年度は、P&G、ユニリーバ、花王、マンダムの比較分析を深めた。 P&Gについては、既存の最も信頼されいている文献では、同社の中国マーケティングの特徴は必ずしも明確に指摘されていない。本研究では追加調査によってその明示に努めた。その結果、同社が2000年以降、従来の富裕層対象路線から大きく改革した新興国市場戦略の内実を示すことができ、90年代以前の高付加価値路線によって印象付けられていた同社の中国戦略への認識を改めることができた。ユニリーバについては、同社がインドや東南アジアにおいて地方・農村部への浸透に力を発揮していた背景に、現地適応路線だけではなく、歴史的にはGosage社の販売方式に端を発する、(中国を含めた)アジア地域に共通する流通チャネル戦略の展開があったことが判明した。 花王については、2005年以降の「アジア一体運営」の内実、及びそれ以前から独路線を取っているインドネシア展開の歴史について調査し、同社の「アジア一体運営」が従来の高付加価値路線を継承するものではあるが、中間層の取り込みや現地への本格的な資源移転(投入)を目指したものであることを明らかにした。また、マンダムのインドネシア等への展開については、中間層以下を狙った独自の現地市場開拓を特徴づけた。 以上の得られた知見を踏まえると、本研究の開始当初の仮説である、新興国市場戦略の内容が各企業の歴史的経緯によって、高付加価値指向か、現地化指向か等々の相違がある、という考えは、特に2000年以降、企業を超えた共通性が強く見出される、という結論に発展的に置き換えられ、歴史研究から新興国市場戦略の一般化への橋渡しが可能になった。
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