本研究の目的は、三井物産・三菱商事が、メーカーの単なる代理人ではなく、なぜ世界市場において独自に活動を行う主体になりえたのかを、商社の内部構造に即して明らかにすることである。 この目的のため、第1に、一昨年度、昨年度に引き続き、米国の国立公文書館に出張して、三井物産・三菱商事関係の資料を閲覧し、必要な資料を撮影によって収集した。国内の三井文庫・三菱史料館においても、必要な資料を収集した。 第2に、これらの収集資料を利用して、両商社における組織(管理組織と営業組織)の変遷・改変と本店本部・商品部・支店の関係(職務権限と指揮命令系統)を分析した。 第3に、研究成果の一部を、鈴木が「三井物産における独立採算制の精緻化と商品部での運用の内実」と題して、『三井文庫論叢』第49号(2015年)に発表し、大石が「戦前期三菱商事における組織改革-未完の改革構想とその論理-」と題して、『三菱史料館論集』第17号(2016年)に発表した。前者は、現在の三井物産の営業組織の特徴である「部店独算制」が、戦前の三井物産において、どのような変遷と問題をはらみながら、最終的な帰結として生まれたのかを、初発の「支店独立採算制」から解き明かしたものである。後者は、1937年の三菱商事の大幅な職制改正などについて分析したものである。三菱商事は三井物産とは異なる編成原理に基づく組織を追求していた。その過程で生まれた職制改正をめぐる総務部長野間の改革構想は、組織改革だけでなく、人事改革の構想でもあった。1937年の職制改正は、組織改革に止まり、中長期的視野で社員のインセンティブを継続的に引き出していく仕組み(人事改革)を制度化できなかった「未完の改革」と捉えられる。
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