本研究課題は、トヨタ生産方式の骨格をなした賃金制度(歩合制度)と連動した原価・能率管理制度の歴史と現状を明らかにすることであった。本年度は過去3年間に実施した調査研究をとりまとめ、論文化した。本研究によって確認できた事実は以下の諸点である。 ①トヨタ自動車の能率管理はトヨタ生産方式の生みの親である大野耐一がつくった歩合制度(生産手当制度)を通じて行われていた。生産手当は1948年に導入され、1965~71年にかけて体系化が行われ、大野氏を議長とする歩合会議が歩合(生産手当支給率)の決定と同時に歩合計算の基礎となっている生産能率の変動を検討し、工場におけるトヨタ生産方式に基づく改善活動を促進していた。この歩合制度・能率管理の仕組みは1980年代末まで大きな変更もなく実施され、生産性向上に貢献した。②1988年に歩合会議が生産部門会議に再編されて管理の中心が歩合決定から生産性評価に変わった。同時に、バブル経済期の製造職場の混乱を背景に「技能系職場魅力アップ委員会」が歩合制度の見直しを行い、資本集約的職場と労働集約的職場の間の歩合格差という不平等を緩和するために1992~93年に能率歩合決定方法の変更が行われた(全製造職場の順位付けから、同質的なショップ群別の順位づけによる評価へ)。③2004年には歩合制度が完全廃止され、生産性給(旧生産手当)の支給率は前年度の全社生産性上昇率を基礎に決定され、一個同一の支給率が製造部門の工長以下の全従業員に適用されるようになった。④歩合制度とともに大野氏が作り上げた能率管理方法も廃止され、生産管理は全社生産性向上目標を指標とした目標管理を中心とし、生産能率は各工場が生産性の向上を測り点検するための管理指標として使われるようになった。 以上の研究成果は学会報告および論文において説明したが、さらなる検討を加えて著書にまとめ、公表したいと考えている。
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