研究課題
最初に設定した3つの課題――(1)ナチス経済の景気回復過程における「起爆」政策と工業経済、(2)第三帝国における「食糧経済」の特質、(3)いわゆる「組み合わされた経済体制」としてのナチス経済の特質――のうち今年度は、(2)のテーマ、すなわち第三帝国における「食糧経済」の特質に取り組んだ。そこでは、「起爆」政策の発動過程における数量景気の妨害要因である、需要非弾力的な財、とりわけ農産物に関わる食糧経済の管理の分析に研究の焦点が置かれた。第三帝国は1936年より「例外的基本法」(4ヵ年計画施行法)によって国家部局に独裁的代理権が付与される「例外状態」に入ったが、食糧経済は、すでにそれ以前から、市場の管理・操舵という点で、他の工業経済、労働経済と比較して、「最も高度に規制された経済システム」であった。国家人民党のフーゲンベルク(Alfred Hugenberg)の後任として第三帝国の農業・食糧大臣のポストに就いたナチ党のダッレ(Richard Walther Darre)のもとで、食糧経済の管理システムは、「国家世襲農場法」(1933年)と「国家食糧団の暫定構成と農産物の市場・価格規制法」(1933年)によって基本的な骨格が形成された。この食糧経済システムの課題として、当時の農業学者マックス・ゼーリング(Max Sering)、経済学者カール・ブリンクマン(Carl Brinkmann)、法学者フランツ・ベーム(Franz Boehm)らの第三帝国農業経済分析をも踏まえつつ、「(農工間の)所得均衡」、「人口政策」、「食糧自給」の3点を析出した。その上で、大不況期における農業の状態を、農産物価格、工業製品価格、農業用機械等、農業の全要素生産性、労働生産性、一人当たりの耕地面積等に関して明らかにし、先の政策課題の経済的・社会的コンテクストを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
起爆政策が目標とした数量景気の実現のためには、賃金およびとりわけ食料品価格の管理が不可欠である。加えて、大不況期の農業危機にある農民の支持を調達しつつ、「例外状態」における第三帝国の政治目標に向けて、食糧経済のシステムを構築する必要があった。こうした諸条件を満たす食糧経済の政策目標が、「所得均衡」、「人口政策」、「食糧自給」として析出しえた。
国家世襲農場と国家食糧団を核とする第三帝国の食糧経済は、「例外状態」が深化していく中で、「所得均衡、「人口政策」、「食糧自給」という政策目標に照らして、いかなる隘路に入り込み、そこからどのような形で脱出しようとしたのかを、とくに土地所有の利害とも絡めつつ、分析する。
一部、物品の購入を次年度に持ち越したため。
購入を持ち越した物品を購入する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件)
Research Paper Series, Graduate School of Social Sciences, Tokyo Metropolitan University
巻: No. 150 ページ: 1~52頁