研究課題/領域番号 |
25380435
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
雨宮 昭彦 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (60202701)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 起爆 / 食糧経済 / 例外状態 / 国家食糧団 / 生産闘争 / 国家世襲農場 / 国家入植法 / 大土地所有 |
研究実績の概要 |
当初の諸課題、(1)ナチス経済の景気回復過程における「起爆」政策と工業経済、(2)第三帝国における「食糧経済」の特質、(3)「組み合わされた経済体制」としてのナチス経済の特質のうち今年度は、(3)のテーマにアプローチした。 全権委任法(1933年3月)によって「先取りされた戦時経済」という「例外状態」に入った第三帝国の経済では、すでに34年に、それまで公的投資、民間設備投資よりも遙かに低かった軍事費が急増して前2者と肩を並べ、翌35年にはそれらを超えて増加していったが、こうした中で、工業経済における競争政策の導入による市場の活性化、労働経済における「賃金規則」という例外規定による企業の労働条件への国家介入の慣行化による労働市場の均衡実現、そして、需要非弾力的な農産物価格に関しては、食糧経済に関連する全生産者・加工業者・流通業者の「国家食糧団」への組織化と公定価格の設定による生産者価格と卸売価格の管理が進行した。その目的は、食料品価格を抑えて賃金コストの上昇を緩和するとともに、商工業所得よりも遙かに低かった農業所得の前者との均衡化を図ることであった。この後者の目的は、1936年の「例外的基本法」(4ヵ年計画施行法)の実施に伴って前者が優位していく中で、後退を余儀なくされることになる。 さらに、原則的に7.5ha~125haの農場を国家世襲農場として設定し理想的人間類型を育成しようとする人口政策の枠組みの中では、1934年より始まった食糧自給を目指す生産闘争の課題に対しては、労働生産性ではなく土地生産性の上昇によって対応せざるを得ないこととなり、それは食糧自給の達成を困難にしただけでなく、先の所得均衡化の課題とも背馳することとなった。なお、ワイマール期の農業改革(国家入植法)を回避して存続した大土地所有は、当時数多く発布されたエコロジー諸法や国際金融等の独自な関連が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
工業経済、労働経済との関連の中で、食糧経済を位置づけ、とりわけ、その課題である人口政策と食糧自給と所得均衡という3つの政策目標が、とりわけ、1936年以降の「例外的基本法」による「例外状態」への転換に伴って、相互に矛盾していく過程を析出しえた。また、このシステムのなかで大土地所有が特別な位置にあることも明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
基盤研究C「ナチズムの「中間層テーゼ」の再検討と第三帝国食糧経済の経済秩序に関する研究」(平成28年度~平成30年度、課題番号:16K03784)として、本研究課題をさらに発展・深化を図っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナチス食糧経済の分析視点が、研究の深化の中で、「所得均衡」、「人口政策」、「食糧自給」の3つに加えて、ナチス期にも継続した「東部救済事業」およびナチス期に成立した森林荒廃防止法や自然保護法等を考慮して、国際金融とエコロジーの視点を追加することが必要となった。さらに、第三帝国の食糧自給の課題である穀物自給を担った大農が第一次大戦後における農業改革から免れた事情に関しても考察を深める必要が出てきた。
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次年度使用額の使用計画 |
第三帝国の時代における、東部救済事業に関連する諸文献、森林荒廃防止法や自然保護法等のエコロジー関連法に関連する諸文献、大土地所有と国際金融に関連する諸文献を購入する。
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