研究課題/領域番号 |
25380438
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
脇村 孝平 大阪市立大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30230931)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 世界経済 / 熱帯 / 飢饉 / 疫病 / 南北格差 |
研究概要 |
本研究に関わって、本年度は、以下の三つの研究活動を行った。第一は、文献研究である。W・A・ルイス(William Arthur Lewis)の熱帯発展論を様々な角度から検討した。ルイスは、19世紀後半から20世紀前半にかけて、熱帯地域が世界経済にどのように包摂され、如何なる役割を果たしたかを論じている。理論的な部分として、彼の労働の無制限供給の理論における「開放経済モデル」を検討した。実証的な研究業績として、彼の著書Growth and FluctuationsとTropical Developmentのうち、熱帯地域に関する部分を検討した。 第二は、史資料調査である。3月8日から3月23日まで、スイスとイギリスに史資料調査に出かけた。スイス・ジュネーブでは、国連ジュネーブ本部図書館を訪ね、イギリス・ロンドンでは、国立公文書館および大英図書館で資料調査を行った。目的は、主に国際連盟の保健機関のマラリア委員会および眠り病委員会に関連する資料を閲覧、収集(写真撮影)した。なお、この調査は、本補助金とは別の資金(新学術領域研究「新興国における経済発展経路の国際比較」研究代表者:杉原薫)によって可能となったが、この調査自体は本研究と深く関連している。また、3月26日から4月5日まで、アメリカに史資料調査に出かけた。アメリカのプリンストン大学にあるマッド手稿図書館を訪ね、W・A・ルイスの残した草稿・書簡などの調査を行った。彼の熱帯地域研究が、どのような情報的基礎に基づいていたのかを確認した。 第三は、研究発表である。3月4日から3月7日まで名古屋の南山大学で開催された「環境危機の起源を求めて」という会議で、「豊饒、瘴癘そして貧困-熱帯アジアへのヨーロッパ人の眼差し」という報告を行った。この研究発表のために、英文の原稿を執筆したが、本研究の研究成果として、何らかの形で公刊したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究活動、特に文献研究と史資料調査によって、以下が明らかとなった。ルイスは、熱帯地域を降水量の多寡によって大別し、湿潤熱帯(主に熱帯雨林地域)と半乾燥熱帯(主にサバンナ地域)に分けた。19世紀後半から20世紀前半にかけて、世界経済の拡大(ヨーロッパの工業化)とともに、熱帯地域は商品作物(カカオ、ゴム、コーヒー、茶、パーム油、コプラなど)の生産地域として、それに包摂されていくが、商品作物生産は、主に湿潤熱帯に広がっていった。それまでは、これらの地域では、熱帯に特有の感染症(例えば、西アフリカの場合には、マラリアとか眠り病)等のために人口は稀少で、開発が遅れがちであった。しかし、この時期に、隣接する半乾燥熱帯から人が移動し、徐々に農地開発が行われたというのである。 ルイスは、このような転換は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカなど広く熱帯地域全般に見られた現象であるとする。本研究では、ルイスの指摘を踏まえて、この転換の環境史的な文脈を明らかにすることを目指したいと考えているが、以下の三つの研究課題が浮かび上がった。第一に、かかる転換は、熱帯の生態環境との絡みで副作用をもたらさなかったのかという点。例えば、開発原病的な現象は伴わなかったのか。第二に、熱帯地域における食糧生産の動向が如何なるものであったかという点。すなわち、ルイスの強調した熱帯地域における食糧生産性の低さは、いったい如何なる理由によるものか。また、これと密接に絡みつつ、半乾燥熱帯における飢饉現象について考察する必要があること。第三に、これもまたルイスの熱帯論に基づく研究課題であるが、熱帯地域に流入した移民労働(主に、中国系とインド系)の賃金や労働条件、そしてこれらの労働の供給源としての背後地域の地域的特性を明らかにすること。本年度、これらの研究課題がより明確になったことが収穫として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
以下の三つの研究活動を考えている。第一は、文献研究である。主に、19世紀後半のインドにおける飢饉について検討する。具体的には、この時期に頻発した飢饉は、如何なる原因によるものかを明らかにする。このような検討をする理由は、この時期のインドの飢饉頻発地帯は、半乾燥熱帯地域に位置し、このタイプの地域における食糧生産の低生産性の問題([現在までの達成度]欄で言及した問題)と絡めて考察したいと考えている。特に、土地稀少化の過程との関連を考察したい。また、いわゆるエルニーニョ現象が、この時期の飢饉に如何なる影響を及ぼしたかも検討する予定である。 第二は、現地調査旅行である。今年度は、ケニアのヴィクトリア湖畔にあるケニア・スバ県のムビタにあるICIPE(International Center for Insect Physiology and Ecology)を拠点にして、近隣地域で、マラリアや眠り病(ここでは、動物がかかるナガナ病)に関する状況を視察する。この地域は、特に20世紀前半に眠り病が大流行した地域に該当し、現地の生態環境の様相を見聞することを主眼としている。 第三は、研究発表である。8月14日から16にまでの三日間、オーストラリア・シドニー(Q Station, Sydney Harbour National Park)で開かれる「検疫―歴史、伝統、場所(Quarantine: History, Heritage, Place)」という会議に出席して、「東アジアの検疫の政治を国際的文脈に位置づける-19世紀後半と両大戦間期(Situating the East Asian Quarantine Politics in the International Context: The Late 19th Century and the Inter-war period)」という報告を行う予定。この報告内容には、19世紀後半のインドにおけるコレラ流行の問題が含まれており、熱帯地域における生態環境とコレラ流行の問題が論じられる予定である。この問題は、本研究と密接に関連している。
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次年度の研究費の使用計画 |
アメリカへの出張費が次年度にまたがって発生。その際、現地で研究のための資料として書籍を購入する費用および複写料を考えて、金額に余裕を持たして次年度に繰り越した。 アメリカ出張時に購入した書籍および複写料に使用する見込み。
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