本研究の研究成果のうち、特に「南北格差」の歴史的起源、すなわち温帯地域と熱帯地域の経済格差の歴史的起源を探る作業において特筆すべき成果があった。具体的には、参照枠としたW・A・ルイスの「熱帯発展」論の欠落部分を埋めたことである。第一は、熱帯アジアにおける無制限労働の供給源であったインドにおける過剰人口の問題を環境史的文脈のなかで明らかにしたこと。第二は、ルイスが明示的に論じていない熱帯地域における農業発展の自然環境的諸条件を明らかにしたこと。第三は、ルイスの視野の外にあった、19世紀前半の熱帯地域(東南アジア)における労働供給の問題(急激な人口増加の問題)を明らかにしたこと。
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