学校教育と実務経験、企業内訓練の職業能力形成における関係性のあり方を追究することを意図して行ってきた千葉工業高校の同窓生を対象とするインタビュー調査に基づく研究を社会政策学会大会で報告し、論文として発表した。本論文は、工業高校卒業者が複数の業種の職場で経験した職務経験とその過程で獲得した能力の内容を、上司あるいは同僚として協働した大学卒業者との対比で解明したものであり、その要点は次のとおりである。 工業高校卒業者と大学卒業者の職務とキャリアの分岐はすべてのインフォーマントの発言で確認され、両者の職業能力の質的差異を前提に工高卒の職能的プロともいうべき人々が現場の技術・管理に果たした役割を高く評価する認識が多く見られた。しかし、大卒者と同じ仕事を担当したインフォーマントは、その仕事に対する大卒者との能力差を否定した。それは、彼らが自らの職務経験を通して、学校教育の職業能力への効果に否定的な認識を保有することになったことを意味する。大卒者と工高卒者の間に存在する職業能力の差異が、学校教育の効果によってではなく、教育資格に基づき従業員の職能・職務の配分を決定する人事管理により生み出された可能性がここに示されたと言うことができる。一方、大卒者の優れた能力として指摘されたのは、人間関係能力、管理能力、計算能力、法律知識、工学知識であり、職業に直接関係したテクニカル・スキルよりも、基礎的汎用的知識とヒューマン・スキルが評価されていた。その上、テクニカル・スキルに当たる工学知識は、優秀な工高卒者であれば、独学で習得可能という経験が語られた。 その他、以前から行ってきた教育資格とエンジニアの職務内容との関係を文献資料により解明した研究を国際会議で報告し、その内容が査読論文として”The East Asian Journal of British History”に掲載されることになった。
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