研究課題/領域番号 |
25380448
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
佐々木 聡 明治大学, 経営学部, 教授 (40205844)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経営史 / 中間流通 / 卸業 / 日用雑貨 / 石鹸・洗剤 / 伊藤伊 / 多段階取引 |
研究実績の概要 |
今年度は,交付申請書に記した研究目的である日用雑貨の地域有力卸売企業の事例として,中部地方から広域展開する伊藤伊が1960年代から80年代前半にかけて,その広域化前の基盤をいかに形成したのかについて実証的に検討し,おおむね所期の成果を達成することができた。 検討に際しては,所有と経営,経営者の方針,メーカーの戦略への対応,組織と管理の整備といった経営体制に関わる面と,取引に付随する保証金,株式や債券購入にみる関係,決済と貸倒損失金にみる関係,取引制度と販売組織,内部留保の推移など会計・財務面に分けて進めた。調査の範囲は,名古屋や東京での伊藤伊関係者への聞き取り調査と史料調査のみならず,被合併会社の所在地の公共図書館である石川県立図書館,別の広域卸企業の存在する仙台市民図書館,東北地域の2次卸で廃業を決断した卸企業経営者のいる五所川原市にまで及んだ。この実証的な検討の成果は,後記のように,愛知大学で開催された学会で口頭発表を行うとともに,所属する機関の学術論集への2編の論文の掲載によって公開した。また,昨年度の研究成果を含む単著書も刊行できた。 本研究によって得られた知見の概要は,次の通りである。まず伊藤伊は1980年代前半まで伊藤家による所有と経営の側面が強かったが,従業員による株式所有も進めた。仲間卸尊重の方針を維持しながら,メーカーの前方統合戦略に対しては自律性を保持するかたちで対応し,新興小売勢力に対しては,組織的として弾力的に対応した。経営実績では法人所得では業界首位にまで向上し,財務的には自己資本と内部留保を充実させて,貸倒損失にも耐えうる金融機能を保持し,次代への蓄積を増やしていったことなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の交付申請書に記した研究目的と研究実施計画に沿って,研究活動を実施することができたし,主な研究成果を学会や学術雑誌に発表することができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究実績を基礎に,今後は,伊藤伊の本格的な広域展開の過程をはじめ,伊藤伊と合併して全国卸企業となってゆく他の卸企業についての実証的な検討を進めることにしたい。平成27年度においては,伊藤伊が広域展開を進めてマネジメント・システムや物流機能を高度化させた1985年以降の詳細について検討することにしたい。 これまでの検討により,1985年以降,この日用雑貨業界は,ダイカをはじめとして広域展開が進展していった時期である。伊藤伊はこの時期にいたっても,当初は仲間卸尊重を唱えていた。とすれば,多分に外圧の影響が大きかったであろう。そうした伊藤伊を取り囲む経営環境の激変が,伊藤伊に対してどのような経営戦略の対応を迫ったのか,さらに,その時期の伊藤伊の経営体制にはどのような変化があったのか。さらに,財務面ではどのような推移があったのか。こうしたいくつかの経営史上の基本的な課題についての検討を進めてゆくことにしたい。 検討に際しては,これまでと同様に伊藤伊の関係者への聞き取り調査と史料調査はもとより,後に伊藤伊と合併する多くの企業のほか,伊藤伊にとって脅威となった競争企業,さらには伊藤伊の協調・競争とは離れた立場にあった企業の関係者への聞き取り調査と史料調査が必要である。また,情報システムや物流システムについては,実際の見学により,その変化の過程を詳細に知る必要もあろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
記憶媒体(HD)などの購入を予定していたが,その発注が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度の初めに発注・購入の予定である。
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